久々の更新で、本当に今更ながらの『オリエント急行殺人事件』を取り上げてみたと思います。

この小説は本当にとても面白いのですが、私がこれまで取り上げてきた小説とは面白さの種類が少し異なっているようです。

私はいままでここで紹介してきた小説では、根底にある「テーマ」を中心に紹介してきました。では、このオリエント急行殺人事件のテーマとは何でしょうか。

私は、この作品にはテーマがないのではないかと考えています。それが他の小説と大きく異なっており、それが最大の面白いところなのです。この小説はテーマなど探さずに純粋にその面白さを味わえばいいのです。

 

もしかしたら、いえ、そんなことはない、この小説のテーマは・・・あなたが気づかないだけだよとおっしゃられる方がいらっしゃるかもしれませんし、アガサ・クリスティもそんなことないよというかもしれません。

しかし、面白い小説には必ず重厚な哲学的テーマが必要なのでしょうか? 内容が重大な何かを示唆している必要があるのでしょうか? 必ずそうとは限らないと私は考えています。

 

話は少し変わりますが、『注文の多い料理店』という小説があります。この小説の一番の面白さは何かと聞いたら、そのオチのアイデアではないでしょうか。風刺的な一面も出てきますが、例えそれが現実世界の何かを描いていなくてもそのオチのアイデアだけで、傑作だと言えるのではないでしょうか。少なくとも風刺があったから傑作なのではないでしょう。

 

※この先ネタバレあります
この注文の多い料理店のように、奇抜な発想を主として作品を構成すると言う形は、日本のあるものと似ています。それは何かと言うと、日本のお笑いです。オチという言葉で表されるように、宮澤賢治のボケに読者が突っ込むと言う構図になっているのです。

どうでしょうか。この小説を読んだ後には、お笑いほど爆笑でないかもしれませんが、自然と笑みがこぼれないでしょうか? 「おまえが食うんかい!」と読者は最後に突っ込んでいるわけです。

 

『オリエント急行殺人事件』は、題名の通り、重い話です。しかし、この小説も同じような構図の小説だと思います。そのテーマは結末のアイデアであり、「オチ」です。この小説を読み終わった後、少し離れたところから見てみると、「そんなあほな!」という突っ込みとともに、笑いが生まれないでしょうか。

 

今回は面白い小説と日本のお笑いとの意外な類似点を書いてみましたが、いかがでしょうか。それは喜劇というカテゴリーわけともちょっと違っているのではないか、と私は思っています。