「人手不足だ!」 こんな声を、どこでもかしこでも聞くようになって来たのではないでしょうか。厚生労働省が発表した有効求人倍率がバブル期を超えて、43年2カ月振りの高水準だというのだから、それも当然です。

有効求人倍率は、景気の先行指標とも言われます。我々のお給料が上がり、消費意欲は拡大、インフレが進行して、景気の回復は鮮明に! と明るい話が聞こえてきそうなのですが、7月19日、20日に行われた日銀の金融政策決定会合では、2パーセントの物価上昇率の目標を6度目の先送り。黒田総裁が記者会見で、「デフレマインドが根強く・・」と、毎度のつぶやきを渋面で吐露する羽目になりました。

そうです。求人件数が表すように、企業業績はとてもいい、ですが、日銀が期待するインフレが全然起きてこないのです。その大きな理由は、緩慢な賃金の上昇です。なぜ、人手不足なのに、賃金の上昇が鈍いのでしょうか?

これは世界的な現象であり、その理由が分からぬと各国の中央銀行はそろって頭を悩ませているようです。でも、実は違います。本当は、彼らはそれを知っているのです。ただ彼れらには、それを表明しにくいワケがあるのです。ですから、当ブログがこっそりそれをお教えしようというわけです。

 

ITの進歩がその理由?

欧州中央銀行(ECB)のメルシュ専務理事は24日、ここ数年の情報技術(IT)の進歩と労働市場における柔軟性の拡大が必然的にインフレを抑制し、金融政策に影響を及ぼす可能性があると述べた

~ ロイター ~

ECBのメルシュさんはこう言います。IT技術の進歩がインフレを抑制するその理由だと。これ、本当でしょうか? 文明の進歩が最近になって急激に、という風には私にはあまり感じられないのですが・・。何か、劇的と言えるほどの変化がありましたでしょうか? 例えば、ここ最近のIT技術の導入によって、10人でやっていた仕事が5人で出来るようになったとか。

もし、あったとしても、もうずっと前から、例えば産業革命で工場が機械化されたりとか、ずっと今まで来ているはずですよね。

それにIT技術にそこまでの力があるなら、43年振りの人手不足にそもそもならなんじゃ?という気がします。ちょっと、矛盾を感じますよね。影響ゼロとは言いませんが、これを最大の理由とするには少し無理があるように思います。

 

賃金上昇が緩慢な本当の理由

では、もっと大きな本当の理由とは何でしょうか? 実はメルシュさんは、こそっと語っています。それは「労働市場における柔軟性の拡大」という部分ですね。記事の題名も、メルシュさんのお話も、IT技術の方に光が当たっていますが、実は賃金上昇においては、この太字にした部分の影響の方がはるかに大きいと私は考えます。

じゃあ、「労働市場における柔軟性の拡大ってなに?」ってことなのですが、その答えはこれです。

外国人労働者、16年に初の100万人超え 技能実習・留学生が増加

  ~ ロイター ~

外国人労働者の受け入れです。他にも、女性や高齢者も労働力として、今まで以上に活用しようという動きも入ります。

厚生労働省では、外国人労働者の増加要因として「留学生の就職支援の強化など、政府が進めている高度外国人材の受け入れが着実に増えていることに加え、雇用情勢の改善が着実に進んでいる」としている。

ここに賃金上昇が鈍い理由がはっきりと書いてありますね。日本で働く外国人労働者は過去最高で前年比20パーセント増ですと。

「物の値段は、需要と供給で決まる」、ということは、とうにご存知だと思います。我々労働者の値段、すなわち賃金もそれで決まります。労働者の不足によりその価値が上昇、賃金が騰がるはずですが、そこに外国から別の労働者がやってきた。

賃金の上昇が緩やかになるのは、当たり前ですね。経営者が、人件費というコストにおいて、より安くを求めるのも当然。

IT技術? そんなのきっと微々たるものでしょう。100万人の労働者に匹敵する影響を与えるような変化が、ここ最近にあったとは思えません。

しかし、日本銀行は外国人労働者をなかなかデフレの理由にはしづらいのです。政府がそれを推進しているからです。

 

世界的な動き

さて、これは日本だけのことかというと、そうではないことが、昨今の世界情勢で鮮明になりました。EU圏では移民の受け入れによって、仕事が奪われたという不満が国民に拡大。それがイギリスのEU離脱にまで繋がりました。また、アメリカでも移民に対して制限をかける政策を掲げるトランプ大統領が誕生し、自国民を優先するナショナリズムの旋風が巻き起こりましたね。

つまり、世界的に労働市場のグローバル化が、賃金上昇を阻んでいる最大の理由である可能性は極めて高いのです。

ですが、やはり世界各国の中央銀行もそれを大々的には言いづらい。移民に閉鎖的なナショナリズム政党は、決まって反EUです。ヨーロッパ中央銀行のメルシュ専務が、そっと話すのも当然なのです。

 

賃金上昇はもう起きないのか

では、昨今のグローバルな労働市場において、賃金上昇の伸びは、もう期待できないのかというと、私はそうは思いません。

雇用における変化は、従来よりも低い失業率でインフレ率が加速し始めることを意味する可能性

メルシュさんはこう言っています。従来よりもう少し失業率が下がれば、インフレが加速すると。外国人の受け入れに以前より肝要だと言っても、やはり限度があります。ドイツのメルケルさんは、「移民を無制限に受け入れる」なんて言っちゃっているみたいですが、本当にそんなことをすれば、国が消滅してしまいます。

今年の4月に行われたフランスの大統領選において、グローバリストのマクロンさんが勝利したことで、ナショナリズムの波はいったん収まったかに見えます。しかし、この流れは人の自然な感情からきていると感じますので、今はただその一服局面で、EU圏では、いずれか再び自国労働者の不満が拡大してくると思います。

日本も当然例外ではなく、外国人労働者の数が増えすぎれば、同じような動きが出てくる可能性があるでしょう。

ですから、外国人労働者にも限りがあり、その逼迫を待って、賃金上昇が加速、インフレに繋がっていく可能性が高い、ということではないでしょうか。

その時はそれほど遠くない、と予測しますが、どうでしょうか。