先日、全品280円均一の居酒屋、「鳥貴族」が10月より、全商品を298円に値上げすると発表しました。その理由は、国産野菜の仕入れ価格、および人手不足によるアルバイトの時給上昇です。

一方、大手スーパーのイオンは、同じ時期にプライベートブランドの値下げを発表しました。理由は「根強い消費者の低価格へのニーズ」とのことです。

はて? この大手2社の方針の違い、一体どこからくるのでしょうか? 仕入れ価格や人件費の高騰は、日本社会全体に起きていることですから、当然両社とも影響を受けていると考えられるでしょう。

また、イオンの値下げの理由は、「顧客の安さへの要望に応えるため」ですが、安さを売りに成長を続けてきた鳥貴族も当然、その要望には応えたいはずですよね。鳥貴族は顧客のニーズを軽視しているのでしょうか? いえ、きっと違います。

ともに安さを追い求める大手二社の今回の方針、その違いの理由は、その、値下げと値上げの具体的な構図に目を向けると見えてきます。そして、そこにはこれから先の時代、果たしてどちらに進んでいくのか? ということも表れていると思います。

 

人件費の高騰は今後も長期的に継続する

鳥貴族が値上げの根拠に挙げた「野菜の仕入れ価格と人件費の上昇」、この内、より永続的な要因はどちらになるでしょうか。

鳥貴族は統一価格が売りで、それを今回変更するということには、それなりの長期的な視野を持っているということになります。こちらの記事にこう書いてあります。

鳥貴族、全品298円に 28年ぶり値上げへ

人手不足によりアルバイト従業員の時給は上昇した。今後も上がり続けることが予想されることや、天候不順でジャガイモなど国産野菜の価格が上がっていることなどから、今回の値上げに踏み切ることにしたという

~ 朝日新聞 ~

人手不足による人件費の上昇は一過性のものではなく、今後も続くと予想される。つまり、これが値上げの理由の根幹だということですね。逆に野菜の価格上昇は今だけ、と予想されますから、値上げの理由としては弱いですね。

これで、鳥貴族がお客のニーズを蹴ってまで値上げに動いた理由が分かりました。人手不足による人件費の高騰が主要因だということです。

 

イオンが値下げ出来る理由

さて、次にイオン側に目を向けてみましょう。人件費の高騰によるコスト増、当然これはイオンにも降りかかっていることでしょう。にも関わらず、イオンは値下げに出ました。これが出来た理由はいったい何でしょうか。この答えは実に簡単です。

値下げしたのはイオンではないからです。

イオンは小売りスーパーですね。商品を作って、イオンに卸しているのは下請け企業です。つまり、イオンは値下げしたのではなく、値下げさせたのです。

イオンの三宅香執行役は値下げの理由を「低価格への意識が強い消費者のニーズに応えるため」と説明した。物流の効率化や店舗拡大のスケールメリットによる原価低減を値下げに充てたという

~ 日本経済新聞 ~

私は申し訳ないですが、少々腹立たしい気持ちでこの記事を読みました。スケールメリットによる原価低減、つまり、イオンは下請けの卸売り業者を不当に?(と言ってしまっていいと思いますが)、叩いただけです。私はつい最近、NHK、クローズアップ現代の『密着!下請けへGメン 中小企業いじめの深層』という番組を見たばかり。何を偉そうに言ってんだ、と正直思いましたね。

 

これらの構図から、「人件費の高騰によるコストアップ」の部分は、下請けが泣くことで無理やり吸収されたと考えらますね。ちなみに世界的な企業のトヨタ自動車も部品の原価削減を求めたことがニュースになったばかりです。

 

人件費アップによるコスト増からのインフレは王道

さて、これまで見てきたことは、日本社会に今後起きてくるであろう、物価動向を予想するのに役に立ちます。当ブログでは、現在、日本企業は人手不足による人件費の高騰に、ぎりぎりで抵抗、やせ我慢状態を続けているが、それも限界に近いと分析してきました。そして、これを象徴しているのが、クロネコヤマトや鳥貴族の値上げのニュースだと思うのです。

当然ですが、人件費のアップというコスト増を抑えるべく、企業は様々な手を打ってきています。人手不足なのに、賃金上昇が起きないのはなぜか? そう言われ始めてから久しいですが、企業の努力で一番功を奏し、賃金上昇の抑制に繋がったと考えられるのが、こちらです。

人手不足でなぜ賃金上昇が鈍い? その本当の理由をこっそり教えます

外国人労働者の受け入れですね。飲食店やコンビニ、居酒屋でも、従業員のほとんどが外国人、なんて状況も珍しくなくなりました。しかし、今回鳥貴族で値上げの話が出てきた、ということはその努力も、もはや限界に近付いている、ということではないでしょうか。

 

受注者側の逆襲が始まった

ここまでで、注目すべき重大な流れは、「発注者側に対して、受注者側の逆襲が始まった」ということです。クロネコヤマトの値上げ交渉は、クライアント側がヤマトの要求を無条件で飲まされる状況だったようです。

値上げに動いた鳥貴族は、安さを追い求める私達、消費者に対して逆襲する形になります。これらはどう見ても、些末な現象ではなく、日本社会全体を流れる潮流だと思います。であるならば、大口顧客である大手スーパーに対し、近い将来、受注者側の下請け企業が逆襲の値上げに動く可能性は十分高いと考えられます。今はその瀬戸際と見ていいでしょう。

コップに溜まった水が溢れ出す時、一向に起きないと言われたインフレが、とうとう動き出すこととなるのです。

 

そして・・我々の逆襲も?

もし仮にこの記事内容が正しかったとして、これから起きてくる値上げ攻勢の煽りを一番受けるのは私達消費者だということになります。じゃあ、私達にはよくないことなんじゃ? まあ、実際そうかもしれません。私も実はインフレがいいものだなんて考えていないのです。しかし、好景気に必須の条件は、インフレとそれに伴う労働者の給与の上昇です。現在の企業収益は過去最高水準です。そして、同時に内部留保と言われる、企業の貯金も過去最高です。

 

企業は儲かりまくっているが、それを労働者に還元していないのが、現状なのです。ですから、私達受注者たる労働者は(このブログを訪れる方の大半はそうでしょうから)、発注者たる企業経営者達とこれから一戦交えなくてはなりません。

今はまさにその好機だ! ということが言えると思います。最近よく聞く、「働き方改革」もまさにそのための物、としなければならないのではないでしょうか。