2月8日、閣僚級の米中貿易協議が開催されると発表されました。「順調に推移している」、 関税の引き上げを一時休止して中国と交渉に当たるトランプ大統領とその側近たちは、それまで口を揃えてそう伝えていました。

しかし、閣僚級協議の発表に先んじて、カドロー委員長はそれまの言質を一転、「まだ大きな隔たりがある」と発言し、投資家や企業関係者を凍り付かせました。

いったい何が本当なのでしょう。

「経済合理性を無視した争いなど起こりえない」、「出来レース」などと不快な知ったかぶりを披露するアナリストの方も最近はほとんどいなくなりましたし、大概の人はもはや気が付いたと思います。

この争いは終わりそうもない、と。

しかし、なぜ、この争いが起こり、今いったい米中間で何が起きているのか、を本質的に理解している方はそうはいないのかもしれません。

争いの骨子

貿易赤字が原因ではない

ほとんどの方がご存知かと思いますが、この争いはアメリカと中国の間の貿易不均衡が原因で起きているわけではありません。「米中覇権争い」、この言葉はすでに一般化していますね。 中でも特に次世代のハイテク分野の覇権をかけた戦いであることは、大手メディアでも伝えられている通りと思います。

ですから、中国が大豆をいくら輸入しようが、そんなことは根本的には全くどうでもいい話です。

アメリカが対中貿易赤字を削減することは、覇権争いに勝つための一つの手段に過ぎないのです。

私たちは中国製品を買うたびに、中国の軍事力増強に手を貸している。

なぜ、中国はこれほど急速に台頭してきたのだろう。それはアメリカが巨額の貿易赤字を抱え、投資と技術を急速に流出させているからだ 。

『米中もし戦わば』 ピーター・ナバロ

ハイテク分野の覇権

アメリカが30年後の覇権を中国に奪われることに危機感を抱き、中国を抑え込みに来ている、これが一般的な認識でしょうか。アメリカ政府のファーウェイ締め出しの動きなどは、その象徴的な出来事として捉えられているでしょう。

でも、実はこれ、ちょこっと違うんですよ・・。

「は?」って思ったでしょう? まあ、まずはこちらを読んでみましょう。

ひそかなベンチャー大国・イスラエルはサイバー犯罪時代の覇者となるか

パレスチナ問題の文脈でしかイスラエルの名前を聞いたことがないという人は、本書を読めばこの国が今やアメリカや中国と肩を並べるほどのテクノロジー大国として台頭していることに驚くはずだ。

business journal

ハイテク分野でアメリカや中国と肩を並べる、小国イスラエル。今、世界で何が起きているのか、それを読み解く鍵はすべてここにある、と私は思っているのです。

イスラエルのテクノロジー系ベンチャー企業は軍に起源を持つケースが多い。特にイスラエル国防軍選りすぐりのエリートからなり、電子諜報を担当する「8200部隊」は多くの起業家を輩出している。この部隊の出身者が創業したベンチャー企業は1,000社にものぼるというから驚きである。

あれ? なんかこれってどっかの国と似てません? 軍出身者が民間企業に派遣され影響力を持つ・・確かファーウェイに関しては、それを世界中が安全保障の脅威と懸念しているんじゃなかったっけか・・。

イスラエルのセキュリティ技術が世界最高峰であり、この技術の重要性が高まり続ける限り、たとえイスラエルに批判的な国でもイスラエルのセキュリティ技術を導入せざるをえず、それらを担う企業に投資をする人や組織もなくならない。こうした既成事実が積みあがれば、イスラエルへのボイコット活動は有名無実化し、意義や効力を失っていくだろう。

あれ? これって30年後にアメリカが中国にされたら困るって言っていることじゃ・・。もう分かりますよね。

イスラエルと中国共産党はその性質、目指す方向性がそっくり、ですよね。

イスラエル・ロビー

イスラエルは、政界・財界を始めとしたアメリカ合衆国社会にユダヤ系アメリカ人が多い事もあって、イスラエル・ロビーがアメリカ合衆国の政策決定に多大な影響力を有する。特に、国際連合安全保障理事会におけるイスラエルに不利な決議案を、アメリカ合衆国に拒否権を発動させ葬る例が多い。

ウィキペディア 「ロビー活動」より

知っている人も多いと思うのですが、小国であるはずのイスラエルは世界一の大国アメリカ政界に対して多大な影響力を持っているのです。私に言わせると、それは影響力などと言うレベルを超え、支配、と言ってもいいもの。つまり、これらを纏めるとこうなりますよね。

世界の主導権を握るイスラエルが、世界第二位の経済大国となり、30年後のの覇権に挑戦できる実力をつけた中国共産党を潰しに来ている。

これが、米中覇権戦争の本質と私は見ています。

イスラエルと中国共産党はその体制から瓜二つの構図で、彼らはともに、将来の覇権という唯一の椅子に座ろうとしています。大喧嘩になるのは、まさに必然ですやん! と言う話なのです。

アメリカも一党独裁?

更に突っ込んで見ていくと、もっと恐ろしい現実も見えてきます。

インタビュアー:メディアは、選挙結果の予測を大きく誤りましたね。

チョムスキー:必ずしもそうとは言えません。メディアは僅差でクリントンの勝利を予測していました。実際、一般投票はその結果通りだった。メディアや世論調査が予測できなかったのは、時代遅れの政治システムが、保守的なグループに想像以上の大きな権限を与えているということです 。

『人類の未来 AI、経済、民主主義』 (NHK出版新書 513)

何度もご紹介していますが、これはアメリカの哲学者でマサチューセッツ工科大学名誉教授、ノーム・チョムスキーさんの2016年のアメリカ大統領選挙に対するコメントです。

と言うか、これは私自身が指摘したことなのですが、アメリカ大統領選挙における非常に重大な事実は、

①トランプは選挙人制度で結果がひっくり返り、大統領になった

②「マスコミが読み間違えた」と言うそれはフェイクニュースだ

という2点です。

チョムスキーさんの言う、想像以上(大統領選挙結果をひっくり返せるほど)の大きな権限をもった保守的なグループっていったい何でしょう? その正体こそ、イスラエル・ロビーだと私は考えています。

トランプ氏の親イスラエル外交はなぜ?鍵握るのは福音派

キリスト教系テレビ番組のホストを務めるCUFI幹部エリック・ステイケルベック氏は、「核合意は、イランが(核)爆弾を得る時間を遅らせているに過ぎない」と核合意離脱を強く訴えた。

同氏は「イスラエルの敵は米国の敵だ」と強調。「今、我々には声がある。光の下で働く機会に恵まれている。ホワイトハウスや議員にアクセスできる」と政権との近さを示した。

朝日新聞 dizital

彼らの敵は、パレスチナと中国です。ただ、今は、中国が最大の問題なのです。

アメリカどこが自由?「イスラエルをボイコットするとクビ」という州法が26州に

人権擁護団体の米自由人権協会ACLUの顧問マナー・ワヒードは、このところイスラエルに対する抗議活動を抑えるための法案が増えていると指摘する。「とくにこの2年で増えている」と彼女は言う。「パレスチナを支持する声が大きくなるほど、それに反対する声が大きくなっているようだ

ニューズウィーク 日本版

もう分かりますね? ごく簡単に言うと、今のアメリカは民主国家ではなく、イスラエル党一党独裁になっている、と言うことです。

これで完璧に分かりました。なぜ、トランプがこれほど対中強硬なのか。彼は初めから中国と戦うために、国民以外の人たちの力で大統領に選ばれたのです。

ですから、米中覇権戦争が終わる時は、どちらかが倒れたときだ、と言うことはまず間違いなく言えるのです。

そして、アメリカと言う国家のこの奇妙な2重構造が分かると、今世界で起こっていることが、かなり理解できるようになると思います。

例えば、イギリスとEUはなぜ、「合意なき離脱」に向かっているの?とか、なぜトランプと金正恩が急に仲良くなって、米軍は撤退の方向、南北は統一に向かい、彼らはなぜ日本に牙をむき始めたの?とか・・。