世界の株式市場が好調ですね。NYダウは連日の史上最高値更新ですし、日経平均株価もつられて年初来高値を更新し、年末に向けて昨年来高値の24,400円を目指すと言う声も大きくなってきました。

株価上昇の理由は、局所的には米中の貿易交渉が合意に近づいていると言う期待、とされていますが、もっと大きく見ると世界景気が既に底打ちしたのではないか? こんな予測もささやかれているようです。

株式市場の他にも気になる動きをしているのが、債券相場です。株式が買われ債権が売られ始めた。これは景気回復局面の典型的な動きであり、明るい展望と言えなくもありません。しかし、私はちょっと違う見方をしています。今回は超真面目な話です(笑)。

なぜ債券は売られているのか

冒頭で書いた通り、最近債券が売られています。

債券市場に警告シグナル、タームプレミアムが急上昇-売り続く兆候か

8月までの安定した上昇から一転し、世界の債券相場は最近数週間に下落した。

ブルームバーグ

最も気になることと言えば、これっていいことなんですかね? 悪いことなんですかね? と言うことでしょう。

貿易紛争の緩和が世界経済への懸念を和らげたことが背景にある。タームプレミアムの反発は債券売りがさらに続くことを示唆する。

(中略)

景気悪化懸念の後退に伴い、安全資産からリスク資産への資金の流れが見込まれる中で投資家は長期債保有について不安を深めている。

どうやらこれを読む限り、決して悪いこととは言えなそうですね。リスク資産への資金の流れ、つまりリスクオンですね。これは昨今の株式市場の上昇とも一致しています。

相場は半年先を読むと言います。最近の株式市場の上昇と債券市場下落は絵に描いたようにこう捉えることが出来ます。

世界経済は既に底打ちし、再び拡大局面に移行した。

実際にこのような推測を立てるアナリストも増えているようです。しかし、一方でこんな見方もあるようです。

債券バブル破裂が次の米リセッションの引き金となる公算大-BofA

2020年代に米経済がリセッション(景気後退)に陥る場合、その引き金として最も可能性が高いのは債券市場バブルの巻き戻しだと、バンク・オブ・アメリカ(BofA)のストラテジストらが予想した。

ブルームバーグ

ありゃりゃ、同じ事象を分析しているのに、まったく正反対ですね。彼らはなぜそんなに悲観的なのでしょうか。

今後数年には、中央銀行が「ひもを押す」という「政策の無能」に陥ることが金利ボラティリティーの急上昇を招き、「最低の金利と最大の利益」という10年にわたる強気の組み合わせを終わらせると共に「資産価格のピーク」を示すだろうとストラテジストらは分析。さらに、当局が現代貨幣理論を実践しインフレ上昇を招くまで国債を発行するなどの政策ミスを犯すことも要因になると指摘した。

そのワケはどうやら、債券が売られている理由の解釈にあるようですね。楽観的な投資家は、今の債券相場の下落は「景気回復を先取りしたリスクオン」によるものだと言います。しかし悲観的な投資家は、「中央銀行の無策」によるものだと言うのです。

これは果たしてどちらが正しいのでしょうか? それは今の時点では誰にも分からないにしても、どうやらこの先の相場を読む上で最も重要なポイントになるのが、この本質の見極めにあると言うことは間違いないようです。

日銀の無策

ちなみにですが、私は後者だと思っています。 その根拠は実に単純です。実際に彼らは既に無策だからです。

コラム:躊躇なく「しらを切った」のか、日銀の対話戦略=上野泰也氏

米中貿易戦争が激化して世界経済が揺さぶられ続けているほか、先進国の中央銀行の間では、5月のニュージーランドを皮切りに「緩和競争」が展開され、米国やユーロ圏も利下げに動いた。

弱みを見せると市場につけこまれて円高が進みかねないため、日銀は強く否定するものの、先進国の中央銀行の中で日銀は、経済に対して「毒」にならず、「薬」としての効能を高い確度で期待できそうな追加緩和カードが、最も乏しい状態だと言える。

ロイター

この題名、うまいこと言うね!と思ったのですが、この記事は実によく現実を書いていると思います。

未曽有の金融緩和と債券バブル

2007年に発生した金融危機、リーマン・ショック後の経済を立て直すため、世界各国の中央銀行は未曽有の金融緩和に取り組んできました。金融緩和とはおおざっぱに言うと、政策金利を下げ、「中央銀行が債券を買う」と言うことです。

約十年間にわたって、世界の中央銀行は債券を大量に買ってきました。だからこそ、世界の投資家達もこぞって債券に投資し続けたのです。

「だって中央銀行が更に高く買ってくれると約束してくれるんだから」

彼らの投資動機は実に単純明快だったのです。しかし、そんな固い契りに結ばれた幸せにもとうとう終わりの時がやって来たのです。2015年に米のFRBが債券購入を停止し利上げを開始、さらに2016年にはヨーロッパ中央銀行が金融緩和の限界を認めました。

投資家にとっての伝説的な人物であるECBのドラギ総裁が、限界を認めたインパクトは大きく、債券バブルの崩壊はこの時から始まったと言うのが当ブログの当時からの一貫した見解です。アメリカに続いてヨーロッパと言う二大経済圏で緩和が終了すると言う大きな事実でもあります。

とにかく「中央銀行はもう買ってくれない!」、これが債券投資家にとってどれほどの失望なのかは想像に難くありません。そのバブルの崩壊は誰にでもわかる必然なのです。

では、今回の債券バブルの再来はなぜ起きたのかと言うと、緩和停止に舵を切った中央銀行達が方針を転換したからですね。FRBは再び利下げに動き、ECBも緩和を再開しました。

「また買ってくれる!」

彼らが歓喜したのは間違いありません。そんな中、我らが日本銀行がどうしたのかと言うと・・

もう1つ見逃せないのが、大幅な円高回避を狙う日銀が今回の局面で展開した、巧妙なコミュニケーション戦略である。

(中略)

端的に言えば、リフレ派路線で大勝負に打って出た異次元緩和初期にタマを使い過ぎてしまい、弾薬庫がすでにほぼ空っぽであるにもかかわらず、日銀は強気を装い、タマがまだ十分あるふりをしながら「ひと芝居」打ったわけである。

日銀はFRBやECBと比べても、異次元に大規模な金融緩和を敢行してきました。そして、弾を使い切った彼らの更なる奥の手は、まさかの「芝居」だったのです。

黒田総裁は11月5日に名古屋で行った挨拶(講演)で「この先、海外経済が一段と減速するとはみていません」、「わが国経済が大きく下振れることはないと考えています」などと言及。

この政策金利の新たなフォワードガイダンスには、1)「物価安定の目標」に向けたモメンタムと明確に関連付けたこと、2)緩和方向を意識して政策運営を行うというスタンスを反映させた──という2つのポイントがあると説明した。

筆者に言わせると、このガイダンスは具体性や客観性をほとんど伴っておらず、日銀執行部が実態として解釈権を有しているため、実に使い勝手のよい構成になっている。

簡単に言うと、日銀はすでに単なる嘘つきと化しているということですね。

マイナス金利深掘り観測に対し、筆者は一貫して否定的な見方を貫いたのだが、10月末に深掘りが本当にあるとみていた市場関係者の一部からは、日銀は「躊躇なく追加緩和する」のでなく「躊躇なくしらを切る」といった、怨嗟(えんさ)めいた声も出ていたようである。

「市場関係者」はともかく、百戦錬磨の機関投資家達は、それに騙されるほど馬鹿ではありません。いとも簡単に化けの皮は剥がれ落ちるでしょう。

以上から、こう言うことになります。再び始まった債券相場の下落は、景気の回復を先取りしたリスクオンが本質ではなく、中央銀行が手詰まりであることを織り込んでいるからである。

日銀以外の各国も策が豊富にあるわけではありません。10年間緩和し続け、正常化に踏み込んだのは、ほとんどアメリカだけ。しかも半分も戻っていません。日銀ほどではないにしろ、やれることがそんなにあるわけないのです。

利下げもすでに打ち止めでは?との見方も有力のようです。

政治は経済を超える

そして、これまで長いこと語ってきた中央銀行の政策よりも、経済にとってもっと重要な事が実はあります。「政治は経済を超える」こんな言葉があるそうです。 前言撤回するようですが そう、世界経済の最大のリスクは結局政治なのです。

コーナーストーン・マクロのパートナー、ロベルト・ペルリ氏は、貿易問題や英国の欧州連合(EU)離脱を巡るリスクが和らいだため、「タームプレミアムは50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)程度上昇する余地がある。米金融当局は金利を据え置いており利上げの可能性はゼロなので投資家がリスクを取るインセンティブは大きい」と話した。

最初に紹介した記事にこうあります。米中の貿易問題や英国のEU離脱問題のリスクが低下した、これって果たして本当ですかね?

「政治は経済を超える」が正しければ、この二大政治リスクが解決に向かうのならば、中央銀行の政策如何によらず、世界経済は順調に回復するでしょう。

しかしこの問題の解決が見せかけだった場合、金利の上昇は「いい話」ではなく「悪い話」に変わるでしょう。

結論から申しますと、世界経済の行方は「米中貿易戦争」と「イギリスのEU離脱問題」という今世紀最大の世界政治リスクの結果如何による、と言うことになります。

私の個人的な分析によれば、この二つの早々の解決はありません。つまり、今の金利の上昇は悪い話であり、景気底打ち期待は幻だと言うことになります。

どうでしょう、これが当ブログが真面目に世界経済を考えた結果です。ここを単なる陰謀論ブログだと思っていた方、驚いたでしょう(笑)。

当ブログは2015年以降の世界経済の拡大と2018年でのピークを当てました。

だからと言って、もちろん今回も当たるとは限りません。ただ私が言いたいのは、個人ブロガーの戯言と言うほどレベルは低くないつもりだよ、と言うことなのです。

経済アナリストや企業経営者達は、元々米中の問題に対する認識が甘く、それが現況を見誤る要因となってきました。逆にうちはその本質をいち早く見抜いていたのです。それが彼らプロのお株を奪った唯一の理由と言ってもいいのです。

米中対立とEU離脱問題の先行きに対する彼らの見通しは、依然として甘いと私は思います。