先日のイギリス総選挙で与党、保守党が事実上敗北しましたね。事前の世論調査では、保守党の圧勝などとされていたので、予想外の結果でした。さて、これを受けて、

「EU離脱に大きな影響がある」

と伝えられているのですが、この影響っていったいどんなものでしょうか。誰にとっていい影響で誰にとって悪い影響なのでしょうか。果たして私達日本人にとっては、この選挙の持つ意味とはなんだったのか、ということを今回考えてみたいと思いました。

メイ首相の思惑

まず、今回の総選挙を仕掛けた張本人、イギリス保守党のメイ首相の思惑とはなんだったのか? から始めてみたいと思います。

4月の時点でメイは、今後のブレグジット交渉を念頭に置いて、与党勢力を拡大して政治的に安定した状態で交渉に臨みたいと話していた

~ ニューズウィーク日本版 ~

メイ首相はEUとの離脱交渉に臨むにあたって、まず国内基盤を固めて、より有利な交渉を行おうと考えていたということですね。しかし、残念ながら結果は敗北です。

さらにブレグジットに立ち向かうイギリスの団結も揺らいでいる。むしろこの選挙で、イギリスが今やそれどころではないことを示してしまった

敗北なら当然です。しかし、そもそも、メイさんが離脱交渉において、大勝負に出てイギリスを一致団結しなければ勝てないと恐れた”強敵”とはいったい誰だったのでしょうか。これは、EUの大ボス、ドイツ、メルケル首相だと言えるでしょう。

「イギリスに有利な離脱はさせない!」

メルケルさんは以前からこのようにイギリスに対して、脅し・・いえいえ、強硬な姿勢を見せていましたね。この戦いは、今回でメルケルさんが圧倒的に有利な状況になった、と言えるでしょう。

 

グローバリズムとナショナリズム

昨年、イギリス国民がEU離脱を選択した際、「ナショナリズムの台頭」が、ニュースでも盛んに叫ばれました。イギリスがEU離脱を選択した理由は、実際は世界的なナショナリズムの台頭とはあまり関係ないという見解もありますが、今回はおおまかな勢力図で考えますので、その辺りは触れないようにします。勢力の大枠で見たときに、今のイギリスは右派、ナショナリズム政権として捉えられているからです。

では、現在の世界情勢のキーワードと言える、グローバリズムとナショナリズム、という枠組みを考えてみたいと思います。

グローバリズム

地球上を一つの共同体とみなし、世界の一体化(グローバリゼーション)を進める思想である。現代では、多国籍企業が国境を越えて地球規模で経済活動を展開する行為や、自由貿易および市場主義経済を全地球上に拡大させる思想などを表す。訳して地球主義とも言われる。

~ weblio ~

まずは、グローバリズムですが、EUのボスともいわれるメルケルさんを表すキーワードがてんこ盛りですね。EUは一つの共同体です。そして、もう一つの重要なワードが自由貿易ですね。

 

ナショナリズム

一つの文化的共同体(国家・民族など)が,自己の統一・発展,他からの独立をめざす思想または運動。国家・民族の置かれている歴史的位置の多様性を反映して,国家主義・民族主義・国民主義などと訳される。

対してナショナリズム、他からの独立を目指す思想、今のイギリスを表していますね。そして、このキーワードに該当する大国がもう一つありますね。それは米国です。「アメリカ・ファースト」、これはトランプさんの口癖です。そして、もう一つの重大ワードの「保護主義」、これもナショナリズムの重要要素です。

メイ首相は就任以来、「米国と世界をけん引する」とし、トランプを絶賛していました。これはグローバリズム国、EUにとっては、果たし状を渡されたも同然と感じたことでしょう。

これで、メルケルさんとメイ首相、トランプさんが対立する関係が大まかにわかりました。実際、先日のG7の後に、メルケルさんは「アメリカとイギリスを頼りにする時代は終わった」と発言し、周囲を驚かせていました。

 

独仏VS米英の情勢

ドイツ対アメリカ、イギリス、この対立関係の戦況はどうなのでしょうか。現在は、グローバリズム、ドイツ側が圧倒的に有利な状況と言えます。イギリスの選挙結果にも、この情勢が大きく影響したとみていいでしょう。

ナショナリズム側が押されていることの大きな要因は、5月に行われたフランスの総選挙で中道、グローバリストのマクロンさんが勝利したことです。ここで彼の対立候補だったのが、極右と言われるルペンさんですね。彼女はごりごりのナショナリストですから、もし、彼女が勝っていた場合、形勢は全く逆だったことは、想像に難くありません。

ですから、アメリカは是が非でもルペンを勝たせたかったはずなのです。「ルペンがいい」というトランプさんの発言は、たっての願いが思わず洩れてしまったものだったのでしょう。

メルケルが「お前らは頼らん!」と強気の発言を出来るのも、EUのもう一つの中心国、フランスからマクロンさんという力強い援軍を得たためなのです。

しかし、今、グローバリズム側が有利だからと言っても、不安要素もあります。EUからナショナリズム側に加わりそうだと言われているのがイタリアです。イタリアは経済状態が悪く、それをユーロのせいだと考える国民が多いようです。次の選挙では反ユーロの右派政党が第一党になる可能性が高いと予想されています。

イタリアの選挙は2018年です。その前にドイツの総選挙が今年の9月にあります。メルケル首相はここでの自らの大勝利で、ナショナリズム台頭の息の根を止めることが果たして出来るでしょうか。

 

日本にとって

さて、ここまでで、イギリスの総選挙でのメイ首相、保守党の敗北の意味が、大まかに分かったような気がします。で、結局、この選挙結果、我々にとってどうなのってことなのですが、これは日本が「独仏」と「米英」のどっち側なの?って考えればすぐに分かりますね。

安倍政権はもちろん、米側です。ですから、私たちは押されています。敗北必至という状況ではないと思いますが、現在は不利な状況とみて間違いないと思います。連動しているのかどうか知りませんが、安倍さんは国会でも押されてますね・・。

でも、独仏と日本が対立する直接の理由は特にないですよね。では、アメリカに付き合っているだけだから、特に気にする必要はないかというと、今回はそう呑気は言っていられない状況にあります。なぜなら、EU側、グローバリズム側には、あのアジアの大国がくっついているからです。それは中国です。

そもそも、アメリカがEUと仲たがいし始めたのも、この国との関係が根本理由である可能性が高いと考えられます。トランプ政権のブレーンのピーター・ナヴァロさんは現在のグローバリズムにおける自由貿易が中国に大変有利で、それが軍事力の増強に直結しているから、そこに一定の制限をかけるべきだ、と主張しています。

つまり、トランプさんは本物のナショナリスト、というよりも戦略的にそれを採用している、とも考えられるわけです。トランプさんは元々なかった機関を作ってまで、ナヴァロさんを政府に招き入れています。彼から相当の影響を受けていることは間違いないと思います。

 

今後は・・

現在、世界で起きているこの戦いの行方は、今後果たしてどうなるのでしょうか。現在はメルケルさん有利とはいえ、相手は世界最強のアメリカです。油断していれば、あっという間に足元を救われるでしょう。それに米国はまだ、ウルトラCとも言える作戦を残しています。それはロシアを仲間に引き入れるというものです。トランプさんは、選挙前から一貫してプーチン愛を語り、大統領になってからも、その関係が決定的に悪化しないような配慮が随所に見受けられますね。

それを受けてか、全世界から非難を浴びたパリ協定の離脱に唯一理解を示す発言をしていたのが、プーチンさんだったようです。

しかし、トランプさんのやり方がまずいのか、この戦略はアメリカ国内では徹底的に邪魔されています。が、日本の安倍政権はうまくロシアとの仲を作ってきています。この辺りはきっと共同なのでしょう。

私は当初、やはり強いのはアメリカだと考えてきました。今年の初めくらいまではむしろ追い詰められるメルケルさんを心配してきました。ですが、今はトランプさんを心配する具合になってきています。

これは、それまでの私の強いアメリカ、怖いアメリカ、のイメージとは異なるもので、ああ、これがよく言われるアメリカの衰退というやつか、と勝手に納得しています。

果たしてこの先の世界勢力図はどうなっていくのでしょうか、現在は非常に混とんとしており、見通すことは非常に難しいと感じます。もちろん日本側勝利を日本人として願ってこの記事を書いているわけです。平和的な方法でと願いながら。

最後に、ナショナリズムの台頭についてですが、これは人間の根本的な感情から生まれてきていることであると思っています。例え、今はグローバリズムが勝ったとしても、やがてはもっと自然な形でナショナリズムが勝利する可能性がありそうだと思います。