8月21日、米国、トランプ政権はアフガニスタンへの米軍増派を発表しました。トランプさんは、政権発足前からアフガニスタンから撤退すると表明していましたので、それを覆した形になります。
少し前にイギリスの総選挙でメイ首相率いる保守党が敗北した際に、このことが日本人にどういった意味を持つのか、という記事を書かせていただきましたが、
今回、米国で起きたことは、それと全く同じ性質である、ということが言えそうです。全然関係ないように思えるアメリカのアフガンへの軍事戦略とイギリスの総選挙の保守党敗北、ここに共通するキーワードは「グローバリズムの勝利」です。
なにそれ? という方がもしいらっしゃったとしても、大丈夫です。分かり安く書きます。そして、今回もそのことが私達にいったいどういう意味があるのか、ということを考えてみたいと思います。
トランプ政権は終わった
8月18日、米国のスティーブン・バノン首席首席戦略官が解任されました。その際にバノンさんはこう語りました、「トランプ政権は終わった」。いったいどういう意味でしょうか。これを知るには、従来のトランプ政権が行ってきたことはなにか、ということを捉えなくてはなりません。
これはかなりシンプルに明確に示すことが出来ます。トランプ政権がこれまで行ってきたこととは、「中国に勝つためのこと」、ただその一点のみだと言っても過言ではありません。
例えば、最近物議をかもした「パリ協定」の離脱。トランプさんは、「パリ協定は中国の陰謀だ! 米国に不利で中国に有利だから脱退する」と言っていました。
たったこれだけの簡単な事実が結構知られていませんね。当ブログを訪れるような情報収集に労力を惜しまない方は、当にご存知のことと思いますが、日本のニュース報道などは、トランプさんの人柄の善悪論などに終始していて、非常にレベルが低いと言わざるを得ず、一般的にはそういう理解はかなり薄いと思います。
「トランプ政権は中国と戦うための政権だ」
と周りの人に言ったら、大抵は怪訝な顔をすることでしょう。
しかし、解任されたバノンさんはその直前にこう言いました。
「アメリカは中国と経済戦争中で、そこに集中すべきだ」
そして、それに向けて邁進する自分には敵が多い、と。結局、彼は解任されてしまいましたので、事実上敗北したことになります。勝ったのは、所謂グローバリストと呼ばれる人たちですね。名指しされていたのは、コーン国家経済会議委員長とムニューシン財務長官です。対してバノンさんは経済ナショナリストと呼ばれています。
グローバリストの勝利で対中制裁が弱まる
~ ロイター ~
彼らが勝利したことで、いったいどのような影響があるのでしょうか。それがこの記事に書いてあります。
トランプ政権内の対中国強硬派は、中国が北朝鮮に影響力を行使しない様子に不満を募らせ、二次的制裁の発動を求めている。しかしより穏健で経済を重視するムニューシン財務長官やコーン国家経済会議(NEC)委員長らは、そうした制裁が中国との経済関係に及ぼす影響を懸念している
経済を重視するグローバリストは、その影響を懸念するあまり、中国に強気になれない、というわけです。これでバノンさんが、コーンさんやムニューチンさんと喧嘩していたワケが分かりましたね。彼は対中強硬派です。そして、このままいけば将来的に中国に負けるという危機感さえ抱いている。経済、つまり「金儲けを気にしている場合ではないだろう!」というのが、彼の主張です。
しかし、彼は敗れました。結果、経済には有利で、中国にも有利になった、ということが言えると思います。
アフガン戦略について
さて、アフガン戦略についてはどうでしょう。どうしてトランプさんがここから撤退しようとしていたのか、これも明らかですね。対中国戦略に集中するためです。でも、トランプさんは今回増派を決定しました。ここにも、政権内の対中強硬派の敗北が見て取れます。ちなみに、アフガンに増派を推進していた勢力は何かというと、所謂、軍産複合体と言われるものです。軍産複合体とは、
軍需産業を中心とした私企業と軍隊、および政府機関が形成する政治的・経済的・軍事的な勢力の連合体を指す概念
~ ウィキペディア ~
ということです。トランプさんは大統領選挙時から軍産複合体を度々攻撃し、その影響力の排除を目指していました。なぜなら、彼らの主目的は、あくまでお金儲けであり、トランプ政権、国家の目論見とは相容れず、むしろ邪魔になると考えたからでしょう。繰り返しますが、政権の目的は中国に勝つこと一点です。
アフガン新戦略については、こちらの記事が詳しいと思います。
~ ニューズウィーク 日本版 ~
読んでもらうと分かりますが、これは我々は元より、アメリカにとっても一切メリットがないばかりか、むしろマイナスに見えます。きっと、これは軍需産業のための戦略、だからですね。ちなみに、軍需産業はグローバル企業です。
この件でバノンさんと激しく争っていたと思われるのが、増派推進派のマクマスター補佐官ですね。
~ ロイター ~
マクマスターさんは共和党議会の支持が厚いと言います。議会は、この軍産複合体影響下のグローバリストが主流と言われています。今回の件では、トランプさんと和解したような形になって、政策が今までよりはスムーズに進む可能性はあるかと思います。これは株価には中期的には有利に働くことが予想できると思います。
コーン委員長は年内に税制改革を形にすると意気込んでいたようですが、果たしてどうでしょうか。トランプ政権の動向を、なぜか一番敏感に反映している日経平均株価が再び騰勢を強める可能性に注目です。
まとめ 我々にとって持つ意味
ここ半年での世界の大勢の大きな変化としてイギリスの保守党の敗北、米国のアフガニスタンへの新戦略が物語るものは、それまでの世界的なナショナリズムブームが一服し、グローバリズムが再び優勢になってきた、ということです。
そして、これで有利になるのはやはり中国です。今のグローバリズムのシステムは、中国経済に恩恵が大きく、アメリカにとって不利なことが多くなっているからです。
トランプ政権はそれに対抗するためにナショナリズムを台頭させた、と言っても、過言ではないはずです。トランプさんとバノンさんが掲げて選挙に勝利した、アメリカのナショナリズムとは、対中国戦略の一環である、ということが言えると思います。しかし、実際にはことごとく失敗に終わり、結果を残せなかったというのもまた事実です。
では、このことが我々にとって持つ意味とは何でしょうか。
グローバリズムとは、資本家や投資家のためのシステムです。ですから、彼らが勝つということは、経済的、株価的には順調に推移する可能性が高い、ということになります。当ブログはマーケット情報を扱っていることから、読者の方には投資家の方もいるでしょうし、私もその端くれです。
そうならば、昨今のグローバリストの勝利は私たちにとって、喜ばしいことであります。しかし、一日本人として考えた場合、どうでしょうか。結果、有利になる中国は、南シナ海での軍事的支配を強め、尖閣はおろか、沖縄の領有権も日本には認めていないそうです。
バノンさん曰く、このままだと米国は中国に敗れてしまう。こうなった場合の未来、その意味するところは簡単に想像がつくと思います。
アメリカを中心に世界的に繰り広げられる、ナショナリズムとグローバリズムの戦い、これは他人事どころか、私たちの心の中にある、と言っても決して大げさではないのでしょう。投資家としての自分と、日本人としての自分のどちらを選んだらよいでしょうか? 今はそのようなことが試されている時なのかもしれません。