イギリス総選挙が終わりましたね。結果は保守党の大勝利で当ブログの予想は大外れとなりました。実は選挙予想は連戦連敗です(笑)。しかし、そんなことよりも、この結果に対し合理的な解釈が見つけられないことに私は参ってしまいました。

facebookページにも「分からない」「分からない」と連日書きこんでいたのですが、今日ある刺激的なニュースがブルームバーグに出ているのを見て、はっとなりました。それは、このニュースです。

英に再び「合意なきEU離脱」不安-移行期間延長しない法改正へ

ブルームバーグ

もしこのニュースが本当だとしたら、今のコンセンサスに反し、合意なき離脱は事実上決定的になると考えざるを得ないはずです。

イギリス総選挙の本当

このニュースの前に今回のイギリス総選挙がどういったものだったかについて、面白い記事を見つけたのでそちらから見ていきましょう。

イギリスの半数はEU離脱を望んでいないのに、なぜジョンソンが大勝したのか

12月12日に行われたイギリス総選挙の最終結果が発表された。

保守党 365議席(+47)
労働党 203議席(-59)

保守党の圧勝である。余裕で過半数の326議席を超えた。労働党の約1.8倍の議席となっている。

ニューズウィーク 日本版

皆さん、ご存知の通り今回の選挙は予想に反して、保守党の圧勝になりましたね。この結果には、EU離脱に対して国民から強い信任がもたらされた、国民は早々のEU離脱を選択した、そのような解釈がなされるのも当然と言えるでしょう。

しかし、事実はそう単純ではないようです。

まずは、事実を正しく把握する必要がある。第一の理由に挙げたいのは、小選挙区制の問題である。イギリス市民の意志を正確に把握するには、得票率を見る必要がある。

◎得票率

保守党 43.6%

労働党 32.1%

(自由民主党 11.5%)

(スコットランド国民党 3.9%)

(緑の党 1.1%)

──保守党は過半数に届いていないのだ。

さらに、得票数を見てみたい。

◎得票数

保守党 1369万6451票

労働党 1026万9076票

2大政党だけ見るなら、保守党の投票数は、労働党の約1.36倍である。それなのに議席数では、約1.8倍もの差がついている。

これは死に票を大量に出す、小選挙区制の弊害である。この方式は、本当に民意を反映した議席配分と言えるのかどうか。日本も他人事ではない。

さて、これを見ただけでピンときたと言う方は、相当な文学的未来表現通だと言えるでしょう(笑)。「過半数に届いていないのに勝利した」そうこれは確かに、「いつかどこかで見た光景」なのです。

インタビュアー:メディアは、選挙結果の予測を大きく誤りましたね。

チョムスキー:必ずしもそうとは言えません。メディアは僅差でクリントンの勝利を予測していました。実際、一般投票はその結果通りだった。メディアや世論調査が予測できなかったのは、時代遅れの政治システムが、保守的なグループに想像以上の大きな権限を与えているということです 。

人類の未来―AI、経済、民主主義 (NHK出版新書 513)

これはもうミニに、いえ耳にタコが出来るほど何度も紹介した、マサチューセッツ工科大学名誉教授、ノーム・チョムスキーさんの2016年のアメリカ大統領選挙への言及です。

今回のイギリス総選挙結果について、チョムスキー風に語らせてもらうならばこう言うことになるでしょう。

インタビュアー:今回の選挙は、イギリス国民がEU離脱を強く望んでいることを表す結果になりましたね。

@bungakumirai:必ずしもそうとは言えません。実際、保守党は得票で過半数を得ていない。今回の選挙結果で明らかになったのは、イギリスの伝統的な政治システムが、保守的なグループに想像以上の大きな権限を与えているということです。

EU離脱騒動の本当

もめにもめていた?EU離脱騒動ですが、その政治的問題はイギリス政府による自作自演だったという事実をご存知でしょうか? 社会的問題はもちろん最初からそこに存在します。しかし、それを解決とまで行かなくても、なんとか丸く治めるのがまさに政治なのに、そのまったく逆をやっていたのが、前メイ首相なのです。

これに関するまともな論評はほどんどなく、メイさんは民主主義を守るために懸命に働いた、これが一般的な見方となっています。これに対しては、申し訳ないですが、そんなはずはないと言う一言で終わりです。

この事実を客観的に示してくれる専門家はこの方くらいでしょうか。

英国のテリーザ・メイ首相が、EUからの早期の本気の離脱をめざして動き出している。10月初めの労働党大会で、来年3月末に離脱をEUに正式申請することを発表した。正式申請すると、離脱を取り消すことができなくなる。

田中宇の国際ニュース解説

そもそもさっさと期限を切ってしまったのは、メイさんです。

EUのトゥスク大統領は「ソフト離脱など存在しない。ハード離脱か、ノー離脱(残留)しかない」と言っている。英国側が手練手管を使って、EUの厳しい建前的な態度を裏で崩し、こっそり交渉する道があり得るかもしれないが、メイはその道をとらず、来年3月末に正式離脱申請することを決めてしまった。

EUとの交渉は多岐にわたるので、メイ政権は大人数の交渉団を編成する必要があるが、交渉団の人事はまだ途上で、準備が遅れている。離脱を正式申請すると、その2年後には、離脱後の経済関係についての交渉がまとまらなくてもEUを離脱せねばならないという趣旨(延長もできるが英欧関係からみて困難)が、EUの憲法にあたるリスボン条約の50条に明記してある。メイは準備不足のまま離脱交渉に入り、英国は良い経済協定を新たに結べないまま、2019年3月にEUを離脱し、経済が大打撃を受けるだろうと、残留派が批判している。メイは、それらの批判に耳を貸さず、離脱に向かって動いている。

最初からソフト離脱は存在しないのに期限を切ってしまったら、そりゃあ「合意なき離脱」が現実の物として存在するようになりますよね。つまり、「合意なき離脱」を作りだしたのがこのメイさんなのです。まったく酷い話だとしか言いようがありません。

しかも彼女は、2017年に「散歩中の思い付き」で解散総選挙を実施し過半数を失い、更に合意しにくい状況を自ら作りました。今更ジョンソンが過半数を取ったと言っても、自爆したものを元に戻しただけなのです。

これを自作自演と言わずして何と言うのでしょうか?

しかもどうやら、これはメイの個人プレーでなく、エリート層の最上層部による戦略に沿って動いている。

ここまで見ると、もう分かったも同然でしょう。最上層部とは「保守的なグループ」のことです。「合意なき離脱」は彼らの戦略だとずっと書いていましたが、この見方はトランプ大統領によって肯定されていますので事実です。

さらにこちら。

英国は民主主義だが、昔から「ロスチャイルド支配」みたいな感じのことがよく言われている。近代世界の国際政治システムを考案し、世界に敷設したのは英国だ。中近東アフリカや中南米を、無数の国々に分割したのは英国だ(フランスなど他の列強は便利な相棒として誘われただけ)。ナポレオン退治後、欧州大陸が多くの国に分裂する状態を永続させるため、ドイツやイタリアを統一国家にすることにしたのも英国だ。

これらの英国の世界戦略は、民主的に決められたのでなく、英国の最上層部が民意と関係なく決めたものだ。

生意気ながら補足させていただきますと、現在の世界政治を主導しているのは、イスラエルの原理主義、保守強硬派であると書いてきましたが、そのイスラエルをロスチャイルド家の支援の下に建国したのもイギリスなのです。

つまり、「保守的なグループ」とは彼らのことなのです。

「ジョンソン合意」の怪

ですから、ジョンソンがEUと合意を結んだと言う意味が私には全く分からなかったのです。その合意とはいったい何のためなのでしょう? ジョンソンは「保守的なグループ」の旗手です。ミイラ取りがミイラになったとは非常に考えにくいのです。

ジョンソン政権が合意した新離脱協定案は、「バックストップは削除する。しかし、イギリスと北アイルランドは一体であり差異は認められない。アイルランド国境付近での税関業務を省略するため、北アイルランドだけは関税手続きをEU基準に合わせる」ことを定めている。

何のことはない。要するに、イギリスと北アイルランドの差異を最初から受け入れ、EU規制への恭順を示しただけの取り決めだ。(メイ前政権と合意した)旧離脱協定案の再交渉をあれだけ固辞していたEUがあっさり修正合意に応じたのは、より御しやすい合意内容になったからに過ぎない。

BUSINESS INSIDER

そう、だからトランプはジョンソンの合意を駄目だと言ったし、もう一人のトランプ、ナイジェル・ファラージは「それはメイの蒸し返しであり、破棄しなければ保守党をぶっ潰す!」と脅迫しました。

しかし、その後ファラージは戦いを止め、トランプは選挙結果を祝福したのです。このことが私にとって最大の謎だったのですが、冒頭に紹介したニュースによってそれが見えてきた気がしたのです。それはやはり、結局まやかしだったのではないかということです。

言うなれば、合意なき離脱のための合意です。

衝撃の離脱法案

ジョンソン首相はまず、離脱協定案の下院採決を早ければ20日にも行いたい意向。可決されれば、英国は来年1月31日までにEUを離脱することになる。

  当局者の1人によれば、上程を予定する法案には、新たな通商条件の締結が間に合わない場合でも、政府が移行期間を延長したり、EU法の英国への適用停止日を延期したりできなくする法文が盛り込まれる見通し。

ブルームバーグ

これはかなり衝撃的です。だって、冒頭でも書きましたけど、これが成立したとなると、事実上合意なき離脱が決定したようなものじゃないですか?

では、2020年1月末にEUを離脱して、2月から通商交渉に着手したとして、わずか11カ月でFTA締結・発効に至ることは本当に可能なのか

真っ当な感覚に照らせば、無理筋と言わざるを得ない。通常の2国間貿易交渉とそれに付随するFTA締結であっても、発効までには相当の時間と体力が必要とされる。この点は特に通商交渉に明るくない向きでも想像がつくことだろう。

BUSINESS INSIDER

まっとうな感覚では不可能、これはまさにその通りでしょう。ジョンソンはやはり真っ当ではないのです。合意なき離脱を避けるために合意したはずなのに、今度は1年後にはそれがほぼ間違いなく破棄されるための法案を作る・・。

この新法案が成立した時点でジョンソンの合意は全く意味をなさなくなります。

やはり前首相のメイも含め彼らは初めから合意なき離脱に突き進んでいる、あらゆる事実がそれを肯定していると言えるでしょう。

もう一つ非常に気にかかるのは、この改変された合意案が果たして議会を通過するのか?と言う疑問です。今回の保守党候補は全員、ジョンソンの合意案に同意することに誓約しているそうですが、この改変も前提だったのでしょうか?

もし議会を通過できなければ、もはや敵なしのジョンソンは、今度こそ合意なき離脱を断行するでしょう。この考えは、1月末の合意なき離脱の可能性すら感じさせるものです。

もし通ったとしても、その後のEUとのFTA締結は無理なのですから、交渉自体がまったくの無駄と言うことになります。だったら、1月末の方がいいんじゃないですか? と言うのが、私からジョンソンへのアドバイスです。

ジョンソンはEUとの交渉を有利に運ぶためにこのような法を制定すると言うでしょうが、彼にとって最も有利、強い交渉とは、交渉をしないことになるでしょう。

私はこれまでずっと、この結末は合意なき離脱で、その可能性は100%と書いてきました。一般的な空気を見ている限り、その予測は大外れだと言った様そうでしょう。しかし、私はまだその予測を撤回する気にはなれません。

時期を言ったのは失敗だったでしょう。だからもういつという予測は立てません。いつかは分からないけど、結末は合意なき離脱だ、それがいまだに変わらない当ブログの見解です。

もしこの法案が通った場合、それは2020年末に確定されるということになるのです。そして、通らなかった場合はもっと酷いことになるでしょう。その時それは、もはや予想ですらない恐ろしい現実となるのです。