12月20日の金融政策決定会合で、日銀がイールドカーブ・コントロールの変動幅を拡大する方針を打ち出し、マーケットに驚きが広がりました。

メディアは「事実上の利上げ」などと報じていますが、これには違和感があります。「利上げ」とは、一般的に「政策金利」の引き上げとされており、政策金利とは日本銀行が民間の銀行の当座預金にあてる金利、短期金利のことになります。

魔性の黒田

元々、マスコミが円安の脅威を口実に、黒田日銀を利上げデートへ強引なお誘いをして、フラレ降られ続けていたという経緯がありますから、また妙な湾曲表現を使って、勝利を印象付けるつもりなんだろうと思っていました。

しかし、よくよく調べて見ると、マスコミをたぶらかしていたのは、むしろ黒田氏の方だったということが分かりました。

YCCの長期国債利回りの変動幅拡大は、2016年9月にYCCが導入されて以降、段階的に実施されてきたことを踏まえれば、今回の措置も実質利上げではなく、YCCの一連の柔軟化策の一環と言える。

しかしながら、今回の措置が「実質利上げ」と評価されるのも、また理解できるところだ。YCCの変動幅拡大を通じた長期国債利回りの上昇を「実質利上げ」と説明し、景気を悪化させることから実施しないと説明してきたのは日本銀行自身であるからだ。それが、今回の措置について日本銀行は、「利上げではない」、「経済に悪い影響を与えない」と説明していることは、多くの人を大きな混乱に陥れている。

『利上げか、利上げでないか』論争が続く日銀のYCCの柔軟化措置 NRI

「躊躇なく白を切る」

黒田氏の真骨頂です。金融政策の説明は「はっきりと言明しない方がいい」ことは過去のマーケットの動きから明らかで、「解釈はそっちでしろ」ということなのです。

で、これは結局「利上げ」ではなく「金融緩和の縮小」、それが私の結論です。

正しい政策

さらに今回の決定は、私は日本を「正しい方向」に導くプロセスだと解釈しています。私の考える正しい方向とは、過去にも書いてきた通り、

金融緩和を止めて、利上げをしない、です。

日銀は今回そのように動いているため、言葉に違和感はあっても、行動に異論はありません。なぜ、金融緩和を止めるべきなのか、それは金融政策と呼ばれるものが、そもそもすべて全くの愚策だからです。

白川方明・前日銀総裁は長期の金融緩和で「政策効果は低下した」と指摘した。自身の任期中(2008~13年)は政界や学界から大規模な金融緩和を求められたが「政策効果は限定的で、副作用を考えると取りえない選択だった」と述べ、金融緩和頼みの政策運営から成長戦略づくりの重要性を指摘した。

「長期緩和、効果は低下した」 白川前日銀総裁金融直言 日本経済新聞

「白」と「黒」の口喧嘩は、「白」のいい分の方が正しいことを書いてきましたが、おそらく、いや確実に「黒」も、初めからそれを知っていたはずです。「黒」は「白い正義」ではなく「黒い現実」を選んだのだと推察できます。

黒い正義

しかし、そんなリアリストの黒田氏も、今回ばかりは「正しさ」を選んだようです。なぜなら、彼は日本の保守の砦、財務官僚出身なのですから。

全期間固定金利型や固定金利期間選択型は長期金利に連動するが、変動金利型は短期金利に連動するという違いがある。

長期金利は2021年後半から世界的に上昇が始まり、その結果わが国でも2022年から全期間固定金利型や固定金利期間選択型の金利がジワジワと上昇している。しかし、短期金利に連動する変動金利型は上がっていない。短期金利は政策金利であり、日本銀行は大規模金融緩和の意向を崩さず、この10年ほど短期プライムレートは変化していない。

住宅ローン金利がジワジワ上昇…利用者の7割が選択「変動金利型」を無理して組んだ人を待ち受ける悲劇 PRESIDENT ONLINE

ここに黒田日銀の「正義」が、はっきりと記されています。メディアが円安の脅威を煽りって、日銀に利上げを迫り、投機筋は連動する形で、異様な円安を仕掛けてきました。しかし、財務省と日銀はしっかりと、それに対峙して、打ち破りました。

なぜ、彼らは勝てたのか? その勝因は、1990年の過ちへの反省をしっかりと行い、敵の同じ手を決して食わなかったことにあるでしょう。

総量規制という金融政策で、「土地を買う目的での融資額を減らせ」という内容の行政指導を金融機関に実施。さらに公定歩合は2.5%から6%台まで引き上げられ、融資を受けることが困難になったのです。

バブル崩壊の原因は?バブル発生から崩壊の流れを5分でおさらい マイナビニュース

表面上は似たように見えるかもしれませんが、当時と今の「戦況」は、異なります。今回、日銀は多くの何も知らない無垢な住宅ローン利用者を、外国のテロリスト連中が仕掛けた、破産の魔手から救っているのです。

しかし、愚かなことに国民は誰一人として日本を応援することができず、メディアの追随に終始しました。当ブログは、ここではっきりとそれを批判しましょう。クソ国民ども、これはもはやポピュリズムですらない、ただのバカリズムだ!・・・はい、全然うまくないのは自覚してます。

”夢”のマイホームが崩壊

では日銀がこれからも、外圧に勝ち続けて、「正しい政策」を続けることが出来た場合はどうなるのでしょうか。

住宅ローンに限っては、短期金利に連動する「変動金利」はあまり上がらず、長期金利に連動する「固定金利」が上っていくということが単純に想像できます。

まず、今後さらに長期金利が上昇しますと、当然ながら住宅ローン金利も上がり、反比例するように不動産価格は下がっていくと思われます。住宅ローン金利が上昇することで、住宅ローンを組んで購入できる不動産価格の上限が抑えられることが1つの理由ですが、もう1点、金利が大きく上昇していくと、これまで異次元金融緩和とは逆のことが起こります。つまり市況全体が悪化し、不景気に陥る可能性も高まってきます。不景気になれば当然ながら不動産価格が下がります。

“黒田ショック”から始まる住宅ローン金利上昇に備えよ! 不動産売却は“なるはや”がいいワケ 日刊ゲンダイ

私はこれを、特に悪いこととは捉えていません。それはあくまで正常化であり、浄化のプロセスだと考えているのです。

会見に臨んだ黒田総裁の表情もこれまでのような険しい表情ではなく、どこかホッとしたような表情であったように感じました。

嘗て「西側」によって、根拠なく価値づけされた金融資産は、すべて価値を失ってくると書いてきました。それが起きてきています。すなわち、マーケットにおける「強気」という概念は、すでに終わったのです。

「夢のマイホーム」も、もちろん、その一つです。

もし、現在40〜50代で、家族がいるのに、未だに賃貸に住んでいることが恥ずかしいと思っている人がいたら、今日から大きく胸を張ってください。私は「持たないことは不幸ではない」と思います。

空き家の急増が広く知られるようになり、誰も住まずに朽ちていく家が問題となっています。

「いま賃貸派の人はラッキー」これからはマイホームを持たない人が勝ち組になる President ONLINE

ブログには書いていないのですが、私は以前から「家は将来、ただでもらえるんだよなあ」と思っていました。で、つい先日、北海道旅行に行った際に、タクシーの運ちゃんから「この村に移住すれば、家はタダでもらえるし、色々な支援があるよ」という話を聞いて、思わず「やっぱり!」とにやけてしまいました。これは将来的に全国に拡大するでしょう。

ただ、私は「賃貸派が勝ち組だ」とか、そんな些末なことをこの記事で言いたい訳ではありません。

今、起きている変化は、そんな程度の話では収まらないのです。

それは「勝ち組」とかいう考え方自体がオワコンで、先程も書いた通り、西側が作った「幸せ」の価値観が崩壊するよということです。

私の答えは、「マイホームの多くは資産にならない」です。

これから「資産としてのマイホーム」、「隣よりいい家に住むと言う夢」の価値は暴落するでしょう。しかし、その替わりに「あなたの住まい」には、新しい価値が生まれることになるでしょう。