人は、起きているときより夢を見ている時の方が正しい。

『パワー』 ナオミ・オルダーマン

「正しい世界」の住民たち

太古の昔から「正しい世界の住民」は、みな、夢見がちだったようです。

「不平等を正当化し、社会に根付かせる方法の1つはイデオロギーです。神秘的な儀式を行うことで、大神殿の建設が良いアイデアだと人々に思わせたのでしょう」

ペルーの遺跡で幻覚剤吸引器を発見。約2500年前に封印された小部屋は支配層が儀式に使用か ARTNEWSJAPAN

その夢から醒めないように、人々は、正しさという夢を賭けて、何千もの間、集団の殺し合いさえ演じ続けてきたわけです。

「西側が勝利し」、その「正しさが証明された」とされ、世界で「西側的諸価値が共有される」ことになった。少なくとも自称「文明国」はそう主張する。その「価値」とは「自由と民主主義(=市場経済)」だとされるが、まさにそこから「民主化・自由化(=解放)」のための新たな戦争が企図されることになる。

「思想と戦争 7. 思想と戦争イデオロギー戦争とメディア」 トイビト 

ですが、ご周知のとおり、その「正しさ」は、突如として急速に劣化し始めました。

米紙ニューヨーク・タイムズは、新委員で医師のロバート・マローン氏は、保守系メディアで「ウイルスやワクチンについての誤情報を広めた」と伝える。マローン氏は、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの開発に貢献したが不当な扱いを受けたと繰り返し主張している。

ワクチン諮問委、新メンバーに批判派 ケネディ厚生長官が指名 毎日新聞

こんなことじゃ、「正しい人」を辞めざるをないじゃないですかねえ。

シリコンバレーで幻覚剤の使用が増える中、幻覚の意味を理解できるよう手助けするセラピーが広まっている。

幻覚剤に走る米IT業界人、専門セラピストが支援 the WALL STREET JOURNAL

極度の夢想家以外の人は、夢から叩き起こされつつあるわけです。もう、目の前の現実しかねえじゃねえか・・てね。

まったくの偶然

なにがもっともらしく、なにがばかげているのかもう判断がつかず、人々はどんな突拍子もない説にも飛びついた。マーゴットはある深夜、インドの研究チームのレポートを読んだ。 若い女性の鎖骨にまたがるように、横紋筋の組織が発達しているのを初めて発見したという。かれらは それを発電器官と呼び、糸を束ねてねじったような形状から「スケイン(裃)」と名づけていた。 鎖骨の先端に電気受容体があって、それが一種の電気的な反響定位機能を持っているというのだ。 また、女児の新生児を対象に鎖骨のMRI検査をおこなったところ、未発達のスケインが認められたという。マーゴットはこのレポートをコピーし、州内のすべての学校にメールで送付させた。ばかばかしい説ばかり大量にあふれるなか、それから数日間はこれだけが唯一まともな科学的説明だったから、ダニエルですらいっときはありがたそうな顔をした。もっとも、すぐにいつもの敵意が戻ってきたが。
こんな器官が発達してきたのは、人類水生進化説の正しさを示す証拠ではないかと、あるイスラエルの人類学者は主張していた。ヒトに体毛がないのはジャングルでなく海で進化したからであり、電気ウナギやシビレエイのように、ヒトの祖先は海の生物に恐れられていたというのだ。

『パワー』 ナオミ・オルダーマン

ああ、まただよ。また出たよ。こんなに苦労して、超面白い仮説を創り出した気だったのに、単に既出だったのを知った時の絶望感ったらありません。それにしても、なぜ、ここまで一緒なんだ~!?

この作品はフィクションである。作中に登場する人物とその氏名、場所や事件は、すべて著者の想像の産物か、あるいは虚構として借用されたものにすぎない。生死を問わず実在の人物が連想されると しても、あるいは現実の事件や場所に類似していたとしても、それはまったくの偶然である。

「まったくの偶然である」じゃねえんだよ。

2017年、4作目にあたる本書『パワー』 で、優れた女性作家に与えられるベイリーズ賞を受 賞。『パワー』はイギリスで40万部のベストセラーとなり、ニューヨーク・タイムズ紙など多くの主要メディ アで絶賛を浴びる。また、オバマ前大統領が毎年発 表するブックリストや、女優のエマ・ワトソンが主宰するフェミニストブッククラブの推薦図書にも挙げられ話題となった。

そんな偶然あるわけないんだよ。じゃあ、なんでこうなったかって言うと、そういうコード進行が、この世界の情報網に流れていると言うことなんです。私はちょっと、その種の音感があるので、それをかぎ取って、ここに書いたと言う訳です。

著者のナオミ・オルダーマンは、ニューヨーク・ タイムズ紙の「あなたの小説は復讐ファンタ ジー的なところがあるが、 #MeToo ムーブメントの到来を予期していたのか?」といった内容の 質問に対し、次のように答えた。

「それが起こることを予期していたというよりも、私自身がたぶんムーブメントの一端だと思 う。(実際に起こったことの)ニュースが、奇妙なかたちでこの小説の内容に追いついてきた感じだ。

わかるよ、わかるよ、ナオミさん! よくあるよね、それ。

コードは、間違いなく存在しているのです。後は、そのコードの意味合いを取り違いないようにしないといけないんですが、このコードは、100%ではないにしろ、重大な史実を含んでいる、と私は見ているんですね。

ある時期、”ヒト”の祖先の一部が、水生生活を余儀なくされたことにより、雌がとてつもないパワーを手に入れた。

ニールの歴史小説によると、かつて世界は男性が支配していた。だが、ある時から女性が突然変異で特殊なパワーを持ち始めた。鎖骨部分にスケインという特殊な臓器が発達し、そこから発電して相手を感電させることができるようになった。社会における男女の力関係が逆転するきっ かけがこれだった。スケインとそれが与えるパワーを持つのは、はじめのうちは数人の特別な少女たちだけだった。しかし、数が増え、パワーを鍛える方法が編み出され、女性の大部分がパワーを持つようになった。

現実には「パワー」の源は、白い肌だった。結局、究極の生殖戦略は、目立つことなのです。

『夢』 アンリ・ルソー

「糸屋の娘は目で殺す」という唄があるそうですが、男性を感電させる「スケイン」に該当するものは、視線でしょう。

では、恋愛のスイッチは、どの時期から入るのでしょうか。驚くことに、恋愛が開始される前から、人は言語を使わない方法で、異性に対して合図を送っているのです。例えば,普段とは違った視線や笑顔であったり,自分の手や腕を触ったり、髪をかき上げたりという些細な動作です。しかも、本人は無意識のうちにその動作を行います。意外にも、この非言語的合図は、約3分の2が女性側から始めることがわかっています3)。男性は、女性が無意識に行う合図に親近感や魅力を感じ(ときには自分に気があると勘違いし)、積極的に相手のご機嫌をとり、食事やデートに誘うようになります(もちろん恋愛が成就するかは別問題です)。これを見ると,恋愛のイニシアチブ(主導権)は、女性側にありそうです。この理由は、生物界のなかに答えが隠されています。動物の生殖行動は、オスが意中のメスにアピールしたり、他のオスと争ったりして、メスのハートを射止めます。これだけを見るとオスにイニシアチブがありそうです。しかし、オスが生殖行動を行うのは、メスが発情している期間だけです。そう、オスは、メスの発情期に踊らされているにすぎず、元々イニシアチブはメスにあったわけです。これと同じく、上記の「非言語的合図」は、発情期をなくした人間においてメスの発情期と同じ役割をしていると考えられ、その名残で女性からの合図が多いと推測されます。いつの時代も,男性は女性の手のひらの上で踊らされている哀れな生き物なんですね…とほほ。

科学で見る恋愛講座 「第2回 やはり恋は盲目! 恋愛のメカニズム」 レジデントノート

男性の皆さんは、女性を口説き落とせるなどと、本気で考えていますか? だとしたら、それは学生レベルの夢であり、実際にあったというならば、あなたは幸運にも感電させられたのを勘違いしただけなのです。そして、この女性の「パワー」の存在こそが、人類最大の秘密であり、タブーなのかもしれません

『パワー』の挿絵

永遠の命を手にする者

さて、長くなりすぎるので、この辺で話を飛躍させて、終わりにしましょう。さて、このまま女性の「パワー」が進化し続けたら、どうなるのでしょう。

消える派の中心人物である豪ラ・トローブ大学のジェニー・グレイブズは、長期的に見るならY染色体の破滅は運命であると主張する。

 予想よりも多少なりとも長くなることがあっても、それは不可避であるという。彼女は、2016年の論文で、トゲネズミとモグラレミングがY染色体を完全に失っていることを指摘し、Y染色体の遺伝子が喪失・創造のプロセスは必然的に繁殖力の問題につながると論じた。このことが最終的に完全に新しい種の形成を促すこともありえる。

Y染色体をもたないモグラレミング
男性は絶滅してしまうのか?劣化するY染色体問題に対し二分する科学者の見解 カラパイア

人類は、完全に新しい別の種になるかもしれないと言います。

オガサワラヤモリはなんらかの手段で、この基本的なプロセスの裏をかくように進化した。魚類や爬虫類、両生類など百ほどの既知の脊椎動物と並び、たいへん門戸の狭い女性限定クラブの一員だ。ほかに会員なのは顕微鏡の使い手でなければ見られない無脊椎の奇妙な生きものたちだ。その性生活は(あるいはその欠如は)進化のパラダイムを揺るがしている。

交尾をともなわない驚異の技術は「単為生殖」と呼ばれ、語源はギリシャ語の「処女」 と「生誕」だ。単為生殖によってオガサワラヤモリはハワイ諸島のみならずスリランカ、インド、日本、マレーシア、 パプアニューギニア、フィジー、オーストラリア、メキシコ、ブラジル、コロンビア、チリ、そのほか各所を席巻するようになった。実のところ太平洋やインド洋の暖かい沿岸地域を訪れれば、ほぼ間違い なく出会える。太陽が傾くころ姿を見せ、ご親切にも人間を悩ませる蚊を食べつつ、朗らかに「歌って」いるだろう。

『ビッチな動物たち 雌の恐るべき性戦略』 ルーシー・クック

その行き着く先は、究極の性戦略、単為生殖。つまりは、あらゆる生物の究極の目標?である「永遠の命」を持つ者かもしれません。

出る杭を打つ者

しかし、そう安々と、その「究極のわがまま」が達成されることもないでしょう。なぜなら、その「パワー」を抑えつけようと言う力が存在していることも、明らかではないですか。

もし女性がそれほど自然に貞節へと傾いていくのであれば、なぜ女性たちの性的な振る舞いは文化的な制約を受けているのか、とハーディは問う。制約の手段は侮辱の言葉、離婚、場合によっては性器切除ということもあり、そこには女性を野放しにしたら放埓な性行為にふけるのではないかという、およそ普遍的な疑念がある。ハーディは別の視点として、 そもそも雌という性がそのような可能性を含むので、父権制の社会システムがそれを修正し、抑えつける形で発展したのだと考える。

文明社会は「女」への攻撃だと書いたことがありましたが、少なくとも「女性のパワー」を抑える役割を担っているように思えます。

そして、生物の「個にとっての」究極の夢である永遠の命の取得に関して、ヒトは本来とは別の形に誘導されているようです。

「2050年までにお金持ちと有名な人間にのみ可能となるだろう」と話すピアソン博士。ロボット工学、遺伝子工学、コンピューティングの飛躍的な進歩の組み合わせにより、たとえ肉体が滅びても様々なかたちやデジタルの世界で生き続けることができるとし「これにより人は複数の存在やアイデンティティを持つことができるようになり、生物学的な死後も生きながらえるようになるのです」と続けた。

富裕層や有名人、永遠に生き続けられる!?SFの世界が現実に 元エンジニアの博士が持論 よろず~

「マサト…なぜロボットを作るのですか?私はあなたにいったでしょう?人類は新しく生まれ変わるんです。それをやるのがあなたの役目ですって……! ロボットではだめなのよ。血の通った人間なのよ。新しい人間が生まれるのをあなたは見守らなければなりません」

『火の鳥』 未来編 手塚治虫

頂点に君臨する者

目立つことが最高の性戦略、それは間違いなさそうですが、同時に上位の捕食者の存在が、生存のジレンマを生み出します。つまり、上位の捕食者が「出る杭を打つ」ことによって、種全体の生態系のバランスが保たれている可能性があるわけです。

頂点捕食者種はしばしば長い食物連鎖の終端にある。 彼ら生態系の頂点に立つものが、生態系全体の持続性に重要な役割を担っているが、一方で侵略的外来種のように生態系を破壊するものもいる。

頂点捕食者は、えじき種(被捕食者)の個体群力学に影響を及ぼす。2つの競争している種が生態学上不安定な関係にあるところでは、その両方を捕食する頂点捕食者が安定をもたらす傾向がある。また、頂点捕食者は、捕食者間の関係にも影響を与える。例えば外来の魚が、固有の支配的な捕食者を圧倒することが知られている。ひとつの湖における調査で、外来種であるコクチバスが人為的に除去されたとき、レイクトラウト(これまでコクチバスによって抑えられていた固有の頂点捕食者)がそのえじき種選択を多様化して、より高次の消費者に移行したことが明らかになった。

(中略)

生態系に影響を及ぼしている頂点捕食者の一般的に引き合いに出される例として、イエローストーン国立公園がある。かつてこの地にはハイイロオオカミが生息していたが、1926年に絶滅していた。1995年のハイイロオオカミの人為的な再導入の後、研究者はイエローストーン圏生態系に急激な変化が生じていることに気がついた。1990年代には増えすぎて2万頭以上いたワピチがハイイロオオカミ導入後、半分以下に減っていったのである。またこれまでワピチが食害していたポプラとヤナギの生育によい影響をもたらし70年ぶりに若木が芽吹きだした。それに伴いヤナギを材料にビーバーがダムを造り始めた。水が豊かになると植物もいっそう豊かになった。他の様々な種の生息地も新たに造られていった。これらハイイロオオカミのえじき種への影響に加えて、ハイイログマ個体群もハイイロオオカミの存在によって影響を受け、その数を増加した。ハイイログマは、冬眠から目覚めた後にオオカミが殺した獲物をあさることで、冬眠中の断食による体力低下から回復するようになったのである。他の数十の種もオオカミのエサのおこぼれを頂戴していることが資料で裏付けられた。

「頂点捕食者」 ウィキペディア

「彼ら生態系の頂点に立つものが、生態系全体の持続性に重要な役割を担っている」

長くなりましたが、こうして考えてみると「生態系の頂点に立つ者」の思惑が、少し見えた気がしている今日この頃です。

個々の(社員の) 能力に変異がなくなってしまったとき、状況の変化についていけなくなり、その生物(組織)集団は絶滅するというのが、360億年のあいだ生き残りをかけて栄枯盛衰を繰り返してきた生物界の常識なのだから。

「先送り」は生物学的に正しい 宮竹貴久

去年(2022年)、ある大学の先生がこんな発言をしていた。

「現生人類であるホモサピエンスが誕生したのは、20万年〜30万年前と言われていますが、いずれ種としての寿命が来て、絶滅するときがきます。いろいろな理由がありうるのですが、その一つは生殖能力です」

「現生人類は、いずれ種としての寿命がきて絶滅する」?…「種」に「寿命」はあるかという大問題 現代ビジネス

放置すれば、人類が絶滅する可能性が高いということを知っていたから、これがこの「世界」が創られた、本当の理由ではないか?

そこに善悪なんて概念は存在しません。今回の記事に対して、女性を悪者にしている! なんてクレームは、ナンセンスですぞ・・