宮部みゆきの最高傑作

これは、宮部みゆきの最高傑作です。本の背表紙に書いてあるのだから、間違いないでしょう。私も異論ありません。この小説は本当にリアリティにあふれています。ノンフィクションの手法を使って書かれていますが、あくまでフィクションです。しかし、実際の話のように私たちの胸に差し迫ってきます。

東京荒川区の超高層マンションで起きた凄惨な殺人事件。そんな殺人事件がなぜ起きたのか、その「理由」。これがまさにこの小説のテーマです。

 

「理由なき殺人」の理由

「理由なき殺人」、実際そのような事件が多発し、マスコミなどでも何年か前にしきりに、取り上げられていました。しかし、

「理由がないのではなく、今までの常識ではその動機を理解できないだけ」

と、どこかの偉い人が言っていました。なるほどと思いました。

 

この小説内の犯人も超高層マンションという血の通わない、文明一辺倒で作り上げられた物質の中で、育ちました。その人間性は、私たちの常識をかけ離れ、このような殺人を犯すにいたったのです。

 

合理的な判断が壊れた殺人

殺人という行為には、私たちの常識で捕らえられる物とそうでない物の二種類があるようです。私たちに理解できる殺人は、代表的な物に恨みやお金が絡んだ利害関係などが、あると思いますが、これらはすべて合理的な打算で起こります。そいつをこの世から消してしまえば、自分が得をする。そして、誤っている場合が大半だと思われるものの、捕まって罰則を受けるリスクを以上のリターンが見込めると踏んだ時にそれは起こります。

 

しかし、昨今の「理由なき殺人事件」と言われるものは、その合理的な判断が壊れてしまっていることから起こるようです。そして、従来の「人間性」も失われてしまった結果、歯止めを失い、暴発すると考えられるでしょう。つまり、警察に捕まって人生を台無しにするという判断、人を殺したくないという人間らしい感情双方がないとなると、なにもそれを抑止するものがないことを意味しているのです。

 

理由の理由、高層マンション

この小説の犯人も、従来の人間性の根幹、人との関わりの温かさや愛を持てなかった人物です。どうしてそのような人間が、多くなって来たのか。宮部みゆきは、その重大な要因の一つとして、「超高層マンション」という舞台を私達に投げかけたのではないでしょうか。