今回は、きわめて文学的な作品です。しかし、これも他と同じように好きですね。古典であり、世界文学の最高峰であり、非常に難しそうということで、読まず嫌いになっている方も多いのではないでしょうか。
しかし、物語好きとして、この作品を読まないのは、あまりにももったいないといわずにはおれません。これは本当に普通に面白いです。確かに、大学の英文科にでも入ったら、必ず読まされるし、今も偉い先生方の研究対象であり、そういった先には難しいことも色々あるんでしょうが、そんなことは私たちの知ったことではありません。
この戯曲の描いているテーマは、誰にも分からないような奥深くに眠った深いことでなく、私たちのど真ん中に表出することなのですから、誰にでも分からないはずはないのです。
「老王リアは3人の娘のうち長女次女の甘言を信じ、三女コーディリアの真心を誤解する。上の二人の娘の裏切りにあって放逐されたリアは、三女の助けも空しく供覧の果てに悶死する」
なんとその辺に良くあることではないですか。誰でもそうではないですか。つまり、都合の悪い本当のことを言う人を嫌って意地悪し、ゴマすりのうまい人達を気に入ったんです。そのためにこのおじいさんは、とんでもない目にあったと言う話です。
どこかの出来ない上司のようです。誰にでも経験あることです。このコーディリアはリアのこと思って、真心であえて、厳しいことを言いました。しかし、リアはそれに怒ってゴマすりをした二人に自分の土地を与えてしまいます。
ゴマすりの二人はもちろん、リアのことなどこれっぽちも考えていないので、用無しのリアをさっさと捨ててしまいます。本当のことに気づいたときは、もう遅いです。リアは無残に死んでしまい、ここに悲劇が成立します。
馬鹿なやつだなあと思いますが、人はだれでも、こんなものですよね。現実の厳しいことより、お世辞を好み、信じますよね。それを知ってるから、それを使って人に気に入られようとしますよね。しかし、それは所詮簡単な甘い誘い。それに気がつかないようでは、最後に悪い結末がやってくる。
天下を治めた百戦錬磨の老王ですら、そんな自然の普遍には逆らうことが出来ないのです。私たちだって、当然同じなのです。こんな人間のど真ん中を切り取って、演劇にしたシェークスピアはやっぱりすごいです。