6月24日、アメリカのトランプ大統領は6月12日に予定されていた米朝首脳会談を突如中止すると発表し、世界を驚かせました。しかし、26日夜には、その方針を再度覆し、予定通り行う意向があることを表明しています。
対する北朝鮮の金委員長は、26日に韓国の文大統領と再び会談、ここで米朝会談の成功、そして「完全非核化」への意欲を表した、とのことです。
日本人の大半にとって、この「完全非核化」と言う話はとても信じられないものだ、というのは共通認識でしょう。私もそう思います。
しかし、私にはそれ以上に気になっていることが2つあります。
①トランプさんが、米朝会談中止を表明する前に、「北朝鮮の態度がおかしくなったのは、習近平のせいだ」と言い出したこと。
②トランプさんが、中国への制裁を融和姿勢に転換したこと。
この件、特に②は一体何の関係があるの? ってところかと思いますが、それをこれから詳しく書いてみたいと思います。そして、ここを抑えると一般の認識では決して見ることの出来ない、トランプ政権の恐るべき隠された意図が見えてくる気がするのです。
中朝関係の誤解
まず、①から見ていきたいと思います。平和的な解決に向け、積極的だった北朝鮮が、急に態度を硬化させたのは、習近平国家主席のせいだ、トランプさんはツイッターでつぶやきました。この件に関して、多くの日本人は、「そうに違いない」と思ったかもしれません。
まず、ここに関して、私はこれは大いなる誤解だ、と言うことを明記しておきたいと思います。ま、と言うよりも、「言いがかり」ですね、これは。私は中国の味方ではありませんが、これは間違いのない事実だと思います。
多くの日本人が、トランプさんの「言いがかり」を違和感なく受け止めるのは、「中国は北朝鮮の後ろ盾だ」と言う考え方を盲目的に信じているからですね。これは実際多くの誤解を孕んでいます。中国は、金政権に「緩衝国家として存在してほしい」と強く願っているはずですが、米朝関係を悪化させることによるメリットは全くと言っていいほどありません。
それはこの記事を読むと、とてもよくわかります。少し古いですが、この構図は現在も変わりません。
~ THE EPOCH TIMES ~
これは何度もお伝えしてきたことですが、北朝鮮と国際社会との関係悪化による戦略的損害が最も大きいのは中国なのです。ですから、習近平さんが、米朝関係が悪化するように仕向けることなど、まずあり得ないことです。本当のことを知りたければ、このことを冷静に判断する必要があります。
これはこの筆者や私だけの特異な見方ではなく、中国共産党の意志を代弁する中国メディアや、きちんとした分析をされている専門家の方の見解を目にすれば普通に分かることです。参考にこちらを載せておきます。
「北の急変は中国の影響」なのか?──トランプ発言を検証する(前編)
このような米中貿易摩擦の分岐点に差し掛かる重要な時期に、習近平が金正恩に「米朝首脳会談開催も考え直さなければならないと恐喝しろ」などという趣旨のアドバイスなどをするはずがない
金正恩が習近平の言うことを聞いたなどという憶測自体、中朝関係の真相をいかに理解していないかの証左となると言っても過言ではないだろう
~ ニューズウィーク 日本版 ~
朝鮮半島の非核化はアメリカの目的ではない
ここを踏まえて、先程の記事に戻ると面白いことが見えてきます。
中国の北東アジア戦略において最重要課題には、次のような優先順位がある。
1.朝鮮半島の非核化。仮にも韓国や日本までもが核武装するならば、中国に脅威となるのは間違いない
「朝鮮半島の不可逆的な非核化はアメリカの最大の目的だ」、トランプ大統領、ポンペオ国務長官、ボルトン大統領補佐官は口を揃えてこう言います。あれ? でも、朝鮮半島の非核化は中国の最大の優先事項だとありますね・・。
過去、数年間にわたる北朝鮮の核開発で中国側が受けてきた戦略的な損失は、韓国に米軍の高高度ミサイル防衛システム(THAAD、サード)を配備されるより、ずっと大きい。なぜなら米国へ、北東アジア地域進出のチャンスを与え、巨大な政治的利益を生み出したことになるからだ。
中国が米国以上に北朝鮮にいら立っているのは、火を見るよりも明らかだ
そして、ここ。北朝鮮が核開発することで、損失を受けたのは中国で、巨大な利益を受けたのはアメリカだ、と書いてあります。だから、中国が怒るのは当然で、アメリカは怒っている振りをしているだけ、と言うことになるでしょう。私はこのことを昨年から何度も指摘してきました。ですから、北朝鮮問題はアメリカによる対中国軍事作戦ですよと。
初めて聞いた方はきっと驚いて「そんなはずはない!」と叫んだことでしょう。でも、私はこれはほとんど証拠を掴んだに近いと思っています。もちろん、物的な証拠はありません。しかし、アメリカが北朝鮮問題で巨大な政治的利益を得たと言う事実は、それ以上のものであり得ると思います。
なぜなら、まれにある科学者による論文不正が示す通り、科学的証拠はいくらでもねつ造が可能だからです。ですが、結果、巨大な利益を得たという状況証拠は、ねつ造することは決して出来ません。その策略を否定するならこう考えるしかありません。
「アメリカって超ラッキーな国だよね~。だって敵である北朝鮮が巨大な政治的利益を運んできてくれたんだから」
逆に中国がこの問題で得を得たと言う証拠どころか、話すら全くありません。なのに、ほとんどの人がこの黒幕は中国だと盲目的に信じているのです。
トランプ政権は対中姿勢を軟化
そして、ここ最近の米中関係を見ていて、私にとって一番の謎だったのは、先程の②番です。
トランプ氏は13日、それまでの対中強硬姿勢を一変し、唐突にZTEへの制裁緩和の検討を指示し、米議会側との対立が深まった
~ 毎日新聞 ~
トランプ政権は、今年4月、安全保障上の理由により、中国のスマホメーカーZTEに制裁をかけ、ZTEが事業存続不可能となるほどの事態となっていました。これはトランプ政権の対中強硬姿勢を象徴するような出来事で、一大事件と言うほどの衝撃があったのです。これらを主導してきたのは、もちろん、トランプさん自身。
就任から一年以上をかけ、中東地域でロシアとの対立に利益を見出す「軍産複合体」の影響力の強い幹部の排除に成功。対中強硬派の面々で脇を固めた彼は、
「やっと思い通りの政権になってきた」
と豪語しました。ところが、今度は唐突に制裁を緩和。議会から反発を食らうという不可解としか言いようのない状況になっています。これは私にとっても寝耳に水でした。しかし、この理由もおぼろげながら見えてきた気がします。
目的は中国責任論の再勃興か
金正恩さんは再度の中国訪問を検討しているとの話があります。もし、これが実現した後、再び金正恩さんの態度が硬化したとしたらどうなるでしょう? トランプさんは激怒し、きっとこう言うでしょう。
「アメリカは貿易戦争回避に必死に努力したのに、中国は恩をあだで返した。こうなったら、更なる制裁強化もやむを得ない」
米国は今年の3月、ZTEへの制裁の他に、米通商法301条と言う強烈な制裁関税を中国に適用すると発表しました。これも先日の通商協議でいったん棚上げされることになったのですが、そもそも昨年の夏、この制裁関税の導入が検討されるきっかけとなったのも、北朝鮮に対する中国責任論でした。
もちろん、これは私の推論に過ぎませんが、中国責任論の再勃興が更なる対中制裁の口実になる、と言うのは十分考え得るシナリオだと思うのです。例えばファーウェイへの制裁とかね。さて、果たして・・。