「ヘンな候補」を選ぶ「ヘンなアメリカ人」

アメリカ大統領選、予備選挙で共和党のトランプ氏が躍進して、話題になっていますね。はたから見ていて、なんであんな「ヘンな人」が選挙で有利になっているのだろう? アメリカ人はどうかしているのじゃないか? そんな風に感じる方も多いようですね。私もそう感じておりますが、しかし、考えてみると、アメリカ人はやはり正気を失ったわけではないと思えてきたので、書いてみたいと思いました。

私がそのように思うに至ったには、すこし前にも同じような「ペテン師」が世界をにぎわしたことがあったからです。それは当ブログでも一世を風靡?した、今では懐かしくも感じる”あの人”です。

 

先駆者はギリシャのあの人!

つい半年前に世界のマーケットには激震が走っていました。その原因は、ギリシャの債務問題の再燃です。その中心にいたのが、急進左翼進歩連合のチプラス首相です。彼は列強のEU各国相手に惚れ惚れするようなセリフを決め、国民のヒーローとなっていたのです。

当ブログでも熱を入れてとりあげ、最初は彼を詐欺師としていたものの、最期の方では彼をギリシャを救う本物の革命家ではないかと、持ち上げましたが、結局、完全に騙されました(笑)。ご存知の通り、チプラスは土壇場で党と国民を裏切り、ドイツ、メルケルの前に完全に屈服したのです。

しかし、驚いたのは、それでも彼はなぜか、国民からの支持を失わなかったことです。その後の選挙でも勝利、国民の支持を取り付けています。

 

これが、アメリカ予備選挙でのトランプ氏の躍進と似ていると私は思うのです。なぜ、ギリシャ国民は裏切ったチプラスを支持し続けたのか? ここを捕らえればトランプ現象も分かることが出来るかもしれません。

 

ギリシャ国民は本当はやっぱり覚悟がなかった?

もし、チプラスがペテン師ではなく、本当の革命家だったら、どうなっていたでしょう。今頃、メルケルとの交渉は決裂し、ギリシャはEUを離脱。彼らは尊厳を取り戻したかもしれませんが、その代償として相当な痛みを甘受せざるを得なかったはずです。

しかし、ギリシャ国民は、そのことをとてもよく分かっていたのでしょう。おそらく、彼らはEUにいいようにやられるのは悔しいが、その痛みを受け入れる覚悟まではなかったと考えられるのではないでしょうか。

それ以外に、チプラスが言質を裏切って妥協しても、支持を受け続ける理由が見つけられません。ギリシャ国民は、チプラスがペテンであり、大それたことなんて到底出来ないことを初めから分かっていたのかもしれません。言葉だけの嘘であっても、EUに真っ向から立ち向かい、彼らを混乱に陥れる形で、なけなしの一矢を報いたたチプラスは、やはり彼らのヒーローだったのです。

もし、チプラスが本物の革命家であったなら、国民はびびって彼を選出しなかった、と考えられるのではないでしょうか。チプラスはペテン師だったからこそ、きっと選挙に勝ったのです。

 

トランプ氏の発言は隠れたアメリカ人の願望

チプラスと同じように、トランプ氏は過激な自由奔放な発言がとても受けています。それはアメリカ人のうちに秘められた願望だと考えられます。それを奔放に発してくれるトランプ氏が人気を集めるのも頷けます。テレビで、

「表立っては言えないが、トランプの過激な発言を聞いているとスカッとする」

と言っていました。

 

またもや有効性が示された『坊っちゃん戦略』

歯に衣着せぬ発言で、庶民のヒーローとなり、支持を急速に集める。これは、当ブログで独自に「坊っちゃん戦略」と呼んでいるものです。「坊っちゃん」とは、夏目漱石の小説、『坊っちゃん』のことです。

無鉄砲でやたら喧嘩早い坊ちゃんが赤シャツ・狸の一党を相手にくり展げる痛快な物語は何度読んでも胸がすく。

これはその岩波文庫のあらすじです。この名小説の示唆通り、自由奔放なトランプ氏はアメリカ人の奥に秘められた願望を叶えてくれる存在で、それが人気の理由と言えるでしょう。

しかし、現実に彼が大統領となって、発言通りの行動に出たとなったら、大混乱になることは必至です。それはアメリカにとっても、不利益であり、聡明なアメリカ人がこのことを分からないはずがありません。

ということは、これはチプラスと同じで、「どうせ彼は言葉の通りになんて出来ないペテン師」「そもそも選出されるはずない」と言うアメリカ人の知的な判断の元、予備選で躍進している、と言うことが言えるのではないでしょうか。

 

日本にいた「本物の革命家」になれたかもしれない人

政治家と言うのは、時にペテン師の方がうまくいく、ということが言えると思います。しかし、我が日本には「本物の革命家」になれるだろう政治家がいました。それは当ブログでも尊敬をもって「坊っちゃん政治家」と呼んでいる橋下徹氏です。

彼の発言は決してペテンではなく、本物であることは彼のこれまでの行動で証明されています。しかし、「本物の政治家」、橋下徹氏は結局敗退してしまいました。なぜでしょうか。それは、チプラスやトランプ氏が支持されている逆の理由だと考えればいいでしょう。

 

日本もアメリカも本当には革命を求めていない

大阪都構想が府民の過半数の支持を受けられず、橋下氏は政局を退いたわけですが、府民は、結局、橋下徹氏の革命の”しんどさ”を受け入れる覚悟がなかったということではないでしょうか。逆に言えば、そんな”しんどさ”を受け入れなければならないほど、府民は困ってはいなかったということです。

日本は橋下徹氏ほどの本物の革命家を求めるほど、せっぱつまっていない、つまり、まだまだ平和だと多くの人が感じでいるということです。

本当に必要ないのか、平和なのかはわかりません。しかし、そこにあるのは、革命が必要とは多くの人は思っていないという事実です。ペテン師の安倍首相(笑)で十分だと判断していると言うことです。

 

岩波文庫のあらすじの続き・・

が、痛快ばかりも言っていられない。要するに坊っちゃんは敗退するのである

さきほどの、岩波文庫のあらすじにはこんな続きがあります。この名文の通り、本物の「坊っちゃん政治家」、橋下徹氏は敗退してしまったのです。では、敗退しないために必要なこととは、偽物の「したたかな坊っちゃん」であることではないでしょうか。

チプラスはその通り、いまだに居座っています。トランプ氏の奔放な発言も、したたかな偽物である限り、勝つ可能性があると言うことになるのかもしれません。

 

とは言え、アメリカも同じようにわざわざおかしな大統領を選出しなければならないほど、せっぱつまってはいないでしょうから、トランプは結局は当選しないでしょう。”無難な”クリントンで十分だと最終的には判断されるのではないでしょうか。

彼の躍進は結局は、余裕の中で行われている、ある種の遊びではないかと思われます。しかし、その遊びは最期の最期まで続く可能性があるでしょう。誰だって、遊びはなかなか止められない物です。遊びに火がついて、最終的に火傷をしてしまう可能性にもわずかながら、心配しておいても損はないかもしれませんね。

 

追記 2016年11月14日

結局最後にトランプ氏が大方の予想を覆し、大統領選挙に勝利しましたね。またもや、「坊っちゃん戦略」の有効性が示されたわけです。しかも、選挙に勝った途端に人が変わったようにおとなしくなっているようですね。トランプ氏はこれ見よがしに、したたかな偽物だったということでしょう。しかし、政治家としてはその方がうまくいく、ということを先輩のチプラス首相が示してくれているのかもしれませんが、アメリカの場合ははたしてどうなるでしょうか。