テーマ

「ドストエフスキーの全作品を解く鍵」と評されるこちらの作品を紹介してみたいと思います。

 

「極端な自意識過剰から一般社会との関係を絶ち、地下の小世界に閉じこもった小官吏の独白を通じて、理性による社会構造の可能性を否定し、人間の本性は非合理的なものであることを主張する

 

新潮文庫の背表紙に書いてあるあらすじの内容ですが、こちらがこの作品の重大なテーマとなりますでしょうか。

なるほど、まさしくその通りだと思います。こうあるべきだ! と正義を語ったところで、人間というものは不合理なもの。なぜ? と理性で捕えようとしても、決して捕まえることはできないものです。これが結局人の心なんではないでしょうか?

 

例えば日本人に一番読まれている、夏目漱石の『こころ』ですが、なぜ先生が最後に自殺したのか、その理由を決して合理的に分かることはできません。ネットを検索してもその答えは出てきません。それは誰にも分らないことなのです。

ですが、最後まで読み終えた時、よくわからないが、それでも共感し、先生を好きになっている。一番読まれる理由はそんなところからじゃないか、と私は思います。

 

こうあるべきだといくら考えたところで、結局人の心はそうはならない。理性で捕えようとすればするほど逃げていくのが人の心であり、人の本性。そんなある意味当たり前のことをこの作品は教えてくれている気がします。

 

この時代から文明によりますます合理化が進み、それによって抑圧された人の心がその逃げ場所を地下に求めるようになる。しかし、どうしようもできず、まさにこの小官吏のような叫びをあげる。

どうでしょう? 現代でもまさしくこんな状態じゃないですか? 私のブログもまさに『地下室の手記』かもしれませんね(笑)。現代社会と人の関わりに関する重大な懸念を抉り出すこの作品はまさに「現代を解く鍵」といっていい作品だと思います。

 

蛇足

蛇足ですが、選挙が近いですが、どうなるでしょうかね。解散には納得いかず、自民党は嫌だが、他によい投票先がなく、低投票率の中、自民が圧勝する。ネットを見ているとこんな予測が多いようです。なるほど、確かに普通に考えればそうです。

他の党に入れたって、自民党よりよくなる気配なんて微塵もなく、民主党が数年前にそれを証明したばかりです。まさか、数年前のことを忘れて、再度期待するなんてことはないだろう・・・。そう考えるのが、自然で当然のように私も思います。

しかし、この『地下室の手記』を読んだ暁には、別の予想を立ててみたいと思うようになりました。なぜなら、「人間の本性は非合理的なものである」と思うからです。もし、それが正しいのならば、「自民党に入れるべき合理的な理由」を差し置いて、「今回の解散には納得できない」「自民党はきらいだ」と言う理由だけで自民党が追い込まれる可能性はないでしょうか?

民主党じゃダメなのは、わかっているが、今回のやり方には納得できないから、民主党に入れてしまった・・。そんな馬鹿なとかもしれませんが、人間の本性は非合理的なものなのですから、あながちではないと私は思うのです。
実際2013年のイタリアの総選挙でそのようなことが起こりました。緊縮財政に耐えかねてた国民が大方の予想に反して、ユーロ脱退を訴える道化師グリッロ氏を選んだのです。これに世界中は震撼。「イタリア人は気がおかしくなったのか?」そんな記事がニュースになっていました。

合理的には理解できません。イタリア人はユーロを実際脱退するとなれば、とんでもないことになることぐらいわかっていたと思います。では、なぜなのか? それは緊縮財政という押し付けられる負担にに対する怒りであり、反抗心であり、合理的な理由を超えた人間としての理由であったのではないかと私は思っています。

 

この小説をそんなところにまで結びつけるのはちょっと飛躍しすぎなんでしょうかね~。