橘玲さんのサイトでトランプ氏に対して興味深い記事

少し前に、アメリカの予備選で共和党のトランプ氏が躍進していることについて、書いたのですが(トランプ氏がペテン師であるほど選挙で勝つかもしれない理由)、それとは別に、いつも巡回している作家の橘玲さんのサイトで面白い記事を目にしたので、ご紹介です。

知識社会は“人種ポピュリズム”から”リベラルなポピュリズムへ

要約すると、「高度な教育を受けた知識の高い人たちが富を独占し始め、2極化が進んだ挙句、そこから脱落した人々がトランプの過激な発言を支持している」ということです。この内容は当ブログがこれまでお伝えしてきた内容で、解説できそうです。

アメリカは合理性を追求する社会へ変わった

20世紀末からアメリカは「知識大国」へと大きく舵を切り、高等教育を通じて世界じゅうの優秀な人材がウォール街やシリコンバレーの「知識産業」に供給されるようになりました。

これは橘さんの解説からの引用ですが、当ブログがこれまで独自に伝えてきた”合理性”と呼ばれるものの性質と完全に合致するお話です。当ブログでは合理性を、

目的に対して最短で最大の効果を上げようとする性質のこと

と定義してきましたが、これにより、人間の活動のかなりのことが整理させて、分かるようになったのです。そして、「学問」、「科学」と呼ばれるものは、その合理性の最たる物であるしてきました。つまり、アメリカは国家として、その”合理性”を追求する社会を目指したということになります。

高等教育を通じて、高度な知識を得ることはすべては「お金を得る」と言う目的を、最短で最大の効率で果たすためである、と言えるでしょう。

 

合理性の追求が独占を生む

「知能」において競争力を持てないひとびとの生活に破壊的な作用をもたらします。知識社会化が進めば進むほど脱落者は多くなり、ついには「1%の富裕層と99%の貧困層」(より正確には「人口の1%が富の3割を保有する社会」)に至ったのです。

いいイメージの”合理性”ですが、実はその本質は結局、「奪い合い」に過ぎず、合理性の追求は結果、独占を生むだけだとも主張してきました。橘さんの記事に書いてある、アメリカ社会に起きていることは正にこれだと断言していいはずです。

余談ですが、「合理性」、「科学」、「学問」、「知識」、これらの言葉に皆さんはどんなイメージを持ちますか? おそらく大半の方はいいイメージを抱くのはではないでしょうか。辞書で、言葉の意味を調べても、これらはいいイメージで説明されていることがほとんどで、辞書と言うお堅い媒体でも、イメージ、印象と言う側面で語られることが多いのだなと感じさせられます。

しかし、物事には「いい面」しかない持たない物はありません。必ず正負両面があるのです。「合理性」、「科学」、「学問」、「知識」、と言うものの目的が、実は「富の奪い合い」「富の独占」にあったとしたらどうですか? これらの言葉に抱くいいイメージはだいぶ崩れ去ることでしょう。

残念ながら、そうではないという明確な、”合理的な”答えを私は見つけられずにいるのです。誰か、知っていたら教えてください。

 

これからも進む二極化 そんな未来を予言する小説

知識社会化にともなう富の二極化は、人種や民族を問わずこれからも拡大していくでしょう。

橘さんの言う通り、二極化は合理性を追求する限り、必ず拡大することでしょう。そんな未来を予言した小説があります。それはH.G.ウェルズ作のSF小説の古典の傑作『タイム・マシン』です。

エロイのユートピアは偽りの楽園であった。時間旅行者は、現代(彼自身の時代)の階級制度が持続した結果、人類の種族が2種に分岐した事を知る。裕福な有閑階級は無能で知性に欠けたエロイへと進化した。抑圧された労働階級は地下に追いやられ、最初はエロイに支配されて彼らの生活を支えるために機械を操作して生産労働に従事していたが、しだいに地下の暗黒世界に適応し、夜の闇に乗じて地上に出ては、知的にも肉体的にも衰えたエロイを捕らえて食肉とする、アルビノの類人猿を思わせる獰猛な食人種族モーロック(Morlock)へと進化したのである。

-ウィキペディア-

最後のところは、ちょっと過激すぎますが(笑)、かなりこの世界に近いことが起こり始めていると考えてなんら違和感はないですよね? 私だけの妄想ではないと思うのですが。と言うことは、これは世界の普遍的なことであり、いくらトランプが大統領になったとしても、それを止めるなんてことは結局は出来ないと言うことでしょう。彼の人気の種になるだけ、ということではないでしょうか。

 

人間の本性は”非合理性”?

最近読んだ人工知能関連、クリストファー・スタイナー作、『アルゴリズムが世界を支配する』の中でも、高度な知識を持ち、アルゴリズム、プログラムを書ける人が勝ち組となり、富裕層となっていくようなことが書かれていました。まさに”合理的な人”がこれからは、どんどん富を独占することになっていく、と言うことでしょう。

ですが、ここで一つ疑問があります。皆さんはそんな”合理一辺倒な人”が好きですか? 私は嫌いです(笑)。なぜか、その理由は明快で、奪われるからです。人間は社会的な動物だと思いますが、我々が合理的なだけの生物だったとしたら、ただ奪い合うことだけが宿命だと言うことになります・・。

これに対する救いになるかは分かりませんが、別の名作文学の一端を紹介したいと思います。

「極端な自意識過剰から一般社会との関係を絶ち、地下の小世界に閉じこもった小官吏の独白を通じて、理性による社会構造の可能性を否定し、人間の本性は非合理的なものであることを主張する」

~ドストエフスキー作 『地下室の手記』

人間の本性は非合理性である、とここにあります。もし、これが本当であれば、私たちは奪い合いの呪縛から逃れられることが出来るかもしれません。私には人間の合理性と非合理性のどちらが人間の本性かは分かりませんが、人間とは他の動物に比べて、そのどちらをも高度に備えた生物であるということは言えるのではないでしょうか。

 

トランプ氏は結局当選しない?

少し話がそれましたが、トランプ氏の躍進の理由は、知識化社会の進んだ結果、その脱落者たちがその反抗、抵抗として、それを体現する彼を支持していると言うことが言えるでしょう。

「知能によって排除されたすべての有権者の側に立つ」

こういう戦略をトランプ氏は取っていると言うことです。

橘さんの見立てでは、結局トランプは現在は数の理由で当選しないだろうとなっています。私もそれはそのように思います。しかし、それは更なる4年後には実現する可能性が十分あるとも。それが本当ならば、4年後には富の独占がもっと進み、富を奪われた脱落者がもっとずっと増えているということを表しています。

初めはお笑い草とも言われていたトランプ氏の人気ですが、今は世界中が余裕ではいられないほどの勢いになってきているようです。その裏にはこんな深い理由が隠れていた、と考えてみるのも全く無駄、と言うことはないのではないでしょうか。

そして、4年後、8年後には一見ふざけたようにも見えるトランプのような人物が、人間の非合理性によって支持され、アメリカ大統領になる可能性は十分ある、という橘さんの予言をどう思われますでしょうか。