8月1日、米国、トランプ政権は、中国に対して、不公正な貿易慣行に対する制裁措置として、米通商法301発動を検討している、とのニュースが一斉に流れました。

~ 毎日新聞 ~

これは昨今、世界中を騒がせている北朝鮮によるICBMと見られるミサイル発射に対する、中国の対応に不満を募らせたアメリカの制裁と言われております。

私はこのニュースに度肝を抜かれました。まさか、このタイミングで、このロジックで、この制裁が出てくるとは・・かなりの衝撃です。なぜならこれは、トランプ政権にとって、発足当初からの悲願の政策だったからです。

 

トランプ政権の根幹は、対ドイツ(EU)、対中軍事戦略

当ブログでは、今年初めの記事で、こう書かせていただきました。トランプ政権の本質とは、対ドイツ、対中国軍事戦略であると。以下がそれです。

2017年、国際情勢物語 ~トランプ大統領は米の軍事戦略か~

当時は、まだ客観的な裏付けが非常に限られていたため、「フィクションです」、と書いていますが、私は本気でした。事実、トランプ政権は、ドイツ(EU)と中国への圧力を非常に強めてきています。

ロス商務長官は1日付の同紙への寄稿で中国と欧州連合(EU)を名指しして「やっかいな非関税障壁を設けている」と批判していた。

そして今回出てきたのが、米通商法301発動の報道。そのターゲットはやはり中国です。

トランプ政権の3つの大きな戦略

トランプ政権には、従来から3つの大きな戦略がありました。

 

①経済政策で中国経済に大ダメージ

トランプ大統領は、抜本的来な税制改革を柱にした、大胆な経済政策を実行することを公約に掲げて当選しました。経済政策なのですから、当然その目的は景気浮揚のはずなのですが、実はこれは軍事戦略だ、という事実をご存じでしたでしょうか?

トランプ政権のブレーンと言われる、ピーター・ナヴァロ国家通商会議委員長の『米中もし戦わば』という本に書いてあるのですから、間違いありません。

例えば、目玉の法人減税は、世界一高い法人税のせいで米国の金と技術が流出、それが中国の軍事力の増強に直結している、だからこそ実行する必要がある、と説いています。

しかし、共和党は足並みがそろわず、オバマケアの代替法案が通らないままで、減税の財源が確保できていません。この政策は現在頓挫したままです。

 

②欧州に保護主義の旋風を巻き起こし、ドイツ、メルケルを倒す

こちらは、当ブログが保護主義ブーム作戦と呼んでいたものです。

保護主義ブーム作戦は失敗に終わった! ~孤立する米国、ホワイトハウス~

詳しくはこちらの記事を読んでほしいのですが、おおざっぱに言うと、米国発の保護主義ブームを欧州で巻き起こし、フランスの大統領選で極右のルペンを勝たせ、ドイツのメルケルを孤立化、最終的に失脚に追い込むという作戦です。なぜ、米国にとって、メルケルが邪魔なのかというと、メルケルドイツは中国との経済的結びつきが強く、実質、中国の盟友となっているからです。

さっきの記事で、ロス商務長官が言っていたやつです。

この作戦も失敗に終わりましたね。フランス大統領選は親EUのマクロンの大勝利で、9月のドイツの議会選挙でも、メルケルの勝利は盤石と見られています。CIAがメルケルの致命的なスキャンダルでも掴んでいない限り、彼女の失脚はないでしょう。

 

③ロシアを仲間に引き入れる

米国はメルケルを孤立させるつもりだった、しかし、実際は自分たちが孤立してしまいました。世界最強のアメリカでもたった一人で、世界の列強を相手に出来るはずはありません。現在は、英国と日本が同盟国と言っていいですが、ここにロシアを引き入れたいのです。ロシア疑惑、と大騒ぎされていますが、これは列記とした戦略です。

報道の通り、これも身内から散々邪魔され、うまく行っていません。ロシアへの制裁に半ば無理やり調印させられたトランプさんは、「我々は関係改善に努力しているのに!」と公然と議会を批判していましたね。

トランプ政権のこの大戦略、ご覧の通り、ほとんど失敗に終わってしまいましたが、これはやはりまずかった。

今ならまだ間に合う。戦争より遥かにましな、遥かに平和的な方法で問題を解決する道はある

ピーター・ナヴァロ委員長の言葉です。戦争より遥かにましな、遥かに平和的な方法が失敗に終わった、ということを意味しています。

 

トランプ政権悲願の米通商法301発動

ここまでくれば、なぜ、米通商法301の発動がトランプ政権の悲願なのか、お分かりいただけたと思います。これは先日、頓挫した国境税政策が、露骨に形を変えて出てきたものだと解釈すればいいでしょう。

さて、気になるのは、この政策を出してきたロジックです。

95年に発足した世界貿易機関(WTO)はこうした一方的措置を認めておらず

とあります。これは国際的に問題のある措置であると。それに対するトランプ政権の論調はこうです。「中国は大暴れする北朝鮮へ真面目に圧力をかけていない。そんな不真面目な中国に、制裁をかけるのは当然。北朝鮮はあんなに危険な国なのだから」

確かに、北朝鮮を抑えるためなら仕方ないか・・あれ? でもなんか変ですね。先程、トランプ政権の本当の敵は中国で、この政策をずっと発動したかったと書きました。では、そう思っていたところに、金委員長が絶妙なタイミングで口実を与えてくれた、ということでしょうか。

それに、「北朝鮮が暴れているのは、おまえらのせいだ」、というこの理屈は無茶苦茶です。中国は「米朝の責任だ!」と大反発していますが、客観的に見たら、中国側の言い分に分があるように思います。100歩譲って米国が正しいとしても、圧力を強化したところで、中国が本気で制裁してくれるなんて、誰一人も思っていません。トランプさんの言動は、非常に不可解です。

もっと、不可解なのは、同じ理由で制裁をかけているはずのロシアには、配慮をみせていることです。プーチンさんは、これに答えて報復を行わないそうです。?・・さっぱり意味がわかりませんね。これは、「制裁の理由は、北朝鮮とは関係ありません」と言っているに等しい。トランプさんは時に正直なので、面白いです。

手玉に取っているのは米国である可能性が高い

コラム:北朝鮮による米本土攻撃の脅威は本物か

~ ロイター ~

こちらの記事をお読みいただきたい。

北朝鮮は実際に戦争を引き起こさないよう、非常にうまく計算して挑発行動を行っている。指導部はこれまでも、衝突が起これば間違いなく体制が崩壊することを重々承知していた。専門家によると、北朝鮮の核兵器保有は主に抑止力を狙ったものだ。2013年に成立した法律、その他の公告では、先制ではなく報復用の兵器を開発していることが明示されている。

実態として、金正恩氏は米国に先制攻撃を仕掛ける能力を持っていない。米国に核攻撃を行って撃破されずに済むほどの軍事力を備えておらず、今後も備えられないであろうことを指導部は自覚している

7月までまさにこの通りだと思っていました。彼は確実に米国に怯え、決して攻撃されないように配慮していたのは当然です。米国は北朝鮮よりも遥かに、何をするかわからない怖い国です。しかし、7月以降、彼はまったくの別人になりました。

米国の軍事演習が「危険な頂上決戦」を引き起こすとか、米国が「レッドラインを越えた」などと、正気で言っているのだろうか。正気なら、どんな行動をとる用意があるのか

そうです。正気ではないのです。正気の金正恩さんはどっかに行ってしまったのです。はっきり書きますと、今の北朝鮮の行動は、金正恩のそれではありません。

「アメリカは私たちからの独立記念日のプレゼントが気に入らないだろうが、今後退屈しないよう大小のプレゼントを頻繁に贈ってやろう」

これは彼の言葉ではありません。彼は絶対にアメリカンジョークを言いません。あなたの生真面目な友人が、ある日突然アメリカンジョークを言うようになりますか? そんなことが起きたなら、目の前の人は別人だと疑った方がいいのです。

これは、先日テレビでCIAのポンペオ長官が語っていた秘密作戦が、すでに成功している可能性を表しています。一般に知れ渡る頃には、その情報はすでに終わっている、これは投資の世界では常識です。

つまり北朝鮮は、すでにアメリカの手の中である可能性がある、ということです。北朝鮮が、金正恩が米国を手玉に取っている? そんなこと、普通に考えて、あるはずないではありませんか。

 

迫りくる米中戦争のリスク

もし、米国が北朝鮮を抑えているのなら、もう安心だ、いえ、残念ながらそうはなりません。むしろ、危険は増したと言ってもいいくらいです。何しろ、米国は世界一何をしでかすか分からない、おっかない国です。金正恩の北朝鮮なら、先程のロイターの記事の通り、日本にミサイルが本当に飛んでくることなんて、まったく心配いらなかった。そんなことを心配するくらいなら、隣人に刺されることを心配した方がいいくらいです。

でも、米国ならやりかねない。なんのため? 今のところ、その理由は見当たりません。だから、大丈夫だとは思います。

それ以上に懸念されるのは、米中対立です。米国は北朝鮮を口実に、中国への対決姿勢を鮮明にしてきました。これは表の作戦が全て失敗に終わった代償です。想像した通りとは言え、やはり、戦争のリスクが高まるというのは、嫌なものです。

そのやり方は、やはり、前共和党政権のジョージ・w・ブッシュ時と似通っています。彼は、イラクをテロリストを支援する悪の枢軸と呼んでいた。そのうち、中国を悪の中枢とでも呼びだすんでしょうか。

我々が本当に警戒すべきは、米朝戦争ではありません。一歩一歩確実に近づいて来るのは、米中戦争の脅威なのです。

現実から目をそらすというこうした状態がこのまま続けば、物語の結末はわれわれ全員にとって苦しいものになるだろう

~ 『米中もし戦わば』 ピーター・ナヴァロ著 ~