29日、EUがイギリスのEU離脱期限延期を正式に承認しました。更に同日、イギリス議会は、12月12日に解散総選挙を行うことを決定しました。
これに対するマーケットのコンセンサスはこうです。
結果、保守党が勝利し、ジョンソンとEUの協定案が批准され「合意ありの離脱」が成立する。
これでみんなハッピー、めでたしめでたし~。
は? 3年も長々見させられた上で、こんなつまらない結末? おいおい、時間返せよ、お前ら。私は正直こう思いましたがいかがでしょう。
同じようなことを思った方のために私がもっと面白い終わりを描いて見せようと思います。それはもちろんフィクションなのですが、しかし、ここのそれはどういう訳か不思議と現実化してしまうことがあるのです。
ネタバレしていたジョンソンの合意劇
全く合意はあり得ないと見られていたジョンソン政権とEU。しかし、彼らは誰も予想だにしない突然のスピード合意という離れ業を披露し、我々観衆の度肝を抜きました。この展開は実にスリリングで私たちを大いに楽しませてくれましたね。
でもね、実はこれを一般公開前にバラしてしまうというマナー違反をやった男がいます。
ファラージ氏は、英国は17世紀のイングランド内戦以来最大の紛争状態にあり、ジョンソン首相はメイ前首相がまとめた合意を蒸し返そうとすることで保守党に崩壊のリスクをもたらしていると指摘。
「10月17─18日のEU首脳会議で一定の譲歩があり、ジョンソン首相がそれを31日までに議会に持ち帰り、結局は承認を得られないだろう」と述べた。
「つまり10月31日の離脱は実現せず、われわれは本当に未知の海域に入ることになる。2度目の国民投票か、総選挙か、わたしにはわからない」と語った。
ロイター
彼はきっと業界人か何かなのでしょう。一般の我々が知る由もなかったシナリオを事前に入手していました。彼の予測がたまたま当たっただけなんじゃないかって?
でも、一か月前ですよ。この頃のジョンソン首相と言えば、「合意なき離脱」を標榜、EUと本格的に交渉する様子は微塵も見せていなかったのですし、そもそもこんなに正確に予測するなんて不可能でしょう。それよりは知っていたと考えた方が話は早いです。
すると、彼はこの先のシナリオもすでに知っているんじゃないかと思うのは当然ですよね。ネタバレしてしまえば、ドラマがつまらなくなってしまいます。しかし、それでも知りたいと思ってしまうのが人情と言うものです。
同党首は、現在のEU離脱期限である10月31日までにEUを離脱すべきだと主張。合意なき離脱が望ましいとの認識を示した。
同党首は「その日までに離脱しなければ、ブレグジット党が次の総選挙でも再び今回のような予想外の事態を繰り返すことになるだろう」と述べた。
ロイター
知っている男、ナイジェル・ファラージによれば、解散総選挙はブレグジット党の圧勝になると言うことです。
ブレグジット党が勝利したら
ブレグジット党は5月の欧州議会選挙において、イギリス2大政党の保守党と労働党を大敗させ躍進。その直接の原因とされたのがEU離脱問題でした。
EU離脱派でもあるハナン氏はその上で、「私たちはブレグジットに投票したのに、まだ離脱していない。理由は簡単なことだ」と指摘した。
同じくEU離脱派のスティーヴ・ベイカー元EU担当閣外相は、約束どおりEUを離脱でしなくては、保守党は「壊滅」するだろうと警告した。
BBC JAPAN
実際問題、未だにEU離脱は実現していませんよね。ファラージ曰く、ジョンソンの合意は「メイの蒸し返し」だと言うのです。彼の言葉通り、今回の総選挙が欧州議会選の二の舞になった場合、その意味合いはこうなりませんかね。
国民は「合意なき離脱」を承認した。
だって、ジョンソンの合意では駄目だと言うことですからね。これは実に恐ろしい話であると同時にこうも言えます。「合意なき離脱」を推進する勢力、支配層にとって、究極のシナリオである、と。
前回も書きましたが、支配層にとって「合意なき離脱」の最大の問題は社会、経済の混乱ではありません。彼らはまるで雲の上にいて、騒動などどこ吹く風の高みの見物です。
しかし、この責任を誰に負わすのか、というのは彼らにとっても実に頭の痛い問題となります。なぜなら一歩間違えれば彼らの部下たちが、全員死んでしまうかも知れなのですから。
その責任を国民が背負ってくれる、民主主義大国、イギリスにとってこれよりいいシナリオは存在しないと言っていいでしょう。
第三の男
そして、この究極のシナリオを演じるのに、最高の俳優がファラージだということです。このドラマの本当の主役は、実はメイでもジョンソンでもなかったのです。ナイジェル・ファラージの登場失くしてこの物語が終わると考えるのは、甚だ失礼な話だったのですね。
ニックネームは「もう一人のトランプ」。欧州議会選挙で彼が見せた保守党、労働党の打倒劇は、エスタブリッシュメント(既得権益)層の解体を進めるトランプの姿そのものでした。
彼は英国政治を全く新しく作り替えているとも言えるでしょう。
(ファラージはEU離脱交渉への)参加を拒否されれば、英国の政治をひっくり返すと警告している。
ジョンソン首相とEUが合意を結んだその時、彼は早々に「こんなのブレグジットじゃない」と言う非難の声明を発表しました。
それは、最終回の前の最後の重大な台詞であり、狼煙だったのかもしれません。
では、ファラージが公開前に、うっかりばらしてしまった「世にも奇妙なブレグジット物語」のシナリオ、ドラマ制作のディレクターとは一体誰になるんでしょう。
そのことは、もしこの話が現実の物となった場合にのみ覗いてみることにいたしましょう。