直木賞受賞ということで、こちらの小説を読ませていただきました。しかし、推薦することは出来ないというのが、私の結論です。それは、やはり、物議を醸したと言われるラストにあります。

この作品は、ジャンルで言うと『ミステリー・サスペンス』となるでしょうか。しかし、前回紹介した『黒い家』などとは違って、失踪するようなスピード感はなく、割とゆったりと時は進みます。それでも、読者を飽きさせないのは、その心理描写の巧みさです。それは、十分にそれだけで魅力的であり、文学として成立しているのではないかと思います。そのすばらしき作品性をスポイルしてしまっていると思うのが、やはりラストです。

 

(この先ネタたばれあります)

この作品は、最大の関心ごとである少女がいなくなったその原因をを明かさずに終えるという手法をとっています。それ自体、悪いことだとは思いません。結局分からないままだったという結末も小説として、成立しないことはないと思います。しかし、この作品は当然原因が最後に分かるであろうことを餌にして、読者の興味を引くように描かれています。

 

「事故なのか、事件なのかだとしたら、犯人は誰なのか?」

誰もが、それを知りたくてこの小説を読み進めることになるはずです。だって、読者に謎を追うように、

 

「最後まで読めば、それが明かされるんですよ」

そういう風にこの小説は、作品中ずっと言っているんです。なのに、結局謎のまま終わってしまう。これは、一種のよくない騙しと言っても間違ってはいないはずです。

 

「この作品は、謎のままで終わるよ」と明かされて、最後まで興味失わずでこの作品を読み通す人はどれくらいいるでしょうか。この作品はそれ以外にすばらしいところがあります。しかし、謎を売りにしてしまっていることによって、そのすばらしいところを打ち消してしまっているような、気がしてなりません。

そんなことで好奇心を煽って、読者をひきつけなくても、もっともっと魅力的な点が十分この作品を光らせたはずだと私は思います。

 

真実は用意されなくてもかまいません。しかし、あたかも、最後にそれがあるかのような素振りをして、読者の興味を引こうとするのは、反則だと私は思います。恋愛でもそうでしょう(笑)。お笑いで言ったら、ふりっぱなしで、ボケてないってことです。

 

落ちはないけど、この小説の一番の魅力は、心理描写です。それが最大の魅力です。心理小説として、描いて欲しかったなあというのが私の感想です。それなら、落ちはいらないんです。でも、ミステリー小説に落ちは必要ですよ、絶対。