3月11日、ドル円が長らく上値の壁となっていた115円をとうとう抜けてきました。いろいろと見ていると、「雇用統計が良いことを睨んだ先回り」などと解説されていたのですが、果たして本当にそうでしょうか? というのも、為替全体の動きを見ていると、ドル高、というよりは、ユーロ高、円売りの動きとなっていたからです。

一昨日にECB理事会が行われたのですが、その中でドラギ総裁は金融緩和に積極的な発言を行わず、それがユーロ高、円売りに繋がっていったのです。つまり、これはドラギトレンドだったと当ブログでは分析しています。さて、これだけなら、それほど騒ぐほどのことではないのですが、先日Facebookページでお伝えしました通り、ドイツのメルケル首相が「ユーロは安すぎる」などと発言していることを合わせますと、情報としての重要度はぐっと高まってくるのではないでしょうか。

アメリカへの気遣い?

「ドイツにとってユーロ安すぎ」メルケル首相発言の波紋と今後のECBの動き

~ THE PAGE ~

メルケル首相が果たしてどのような真意でこれを言ったのかは、もちろん分かりません。

「ドイツはユーロ安の恩恵を独り占めしている!」

前FRB議長のバーナンキさん自らこうおっしゃるほど、アメリカはドイツ製造業のユーロ安による利益をよく思っていないようです。もしかすると、3月17日にG20がドイツで開催されますが、その成功のためにドイツはアメリカに気を使っているのかもしれません。

 

G20草案から消えた「保護主義に反対」 トランプ政権に配慮か

~ ニューズウィーク 日本版 ~

こんな記事もありました。G20で毎度定番声明だった「保護主義に反対」の文言が消えているというのです。これはアメリカのトランプ政権に気を使ったものであることは明らかでしょう。そりゃあ保護主義を前面に打ち出して当選した大統領に「保護主義反対」の草案は突き付けられないでしょうから。

しかし、妙なのは、「通貨安競争を回避する」という文言も消えている、ということです。そして、これもトランプ政権への配慮として一緒くたにされているということです。

トランプ大統領はこれまで、通貨切り下げを積極的に推進する国として日本と中国を名指しで批判しています。この2か国に「通貨切り下げをやめろ」と言っているわけです。それでなんで、「通貨切り下げ競争は止めましょう」というこれまでのG20の声明の文言を消すことがアメリカへの配慮になるんでしょうか・・? 逆に「通貨切り下げをやったら、しばく!」というくらいの強い文言にした方が配慮になるんじゃないでしょうか?

ということで、「競争的な通貨切り下げを回避し、競争目的で為替をターゲットとしない」という文言が消えた理由はきっと別のところにある、と当ブログでは睨みます。

 

通貨高競争がやってくる

当ブログでは予てより、「通貨安競争は終わりを告げ、通貨高競争の時代がやってくる」とさせていただいておりましたが、とうとうそれが具現化しつつあるのではないか、と私は推察しています。

何度もしつこくお伝えしています通り、昨年の秋くらいから、債券から株式への資金移動、所謂グレート・ローテーションが起こってきています。それは同時に、デフレ時代からインフレ時代の転換を表します。それまで30年続いたデフレ時代には、その対抗手段として「通貨安」が好まれていました。そのトレンドを創ったのはアメリカです。

これが「通貨安=正義」というような価値観を生み出しました。だから各国が競争するように通貨安政策を取るようになりました。その結果、G20でわざわざ毎回、「不毛な過度な競争は止めましょう」と宣言することになったのです。

しかし、アメリカは2015年の12月に利上げを開始し、通貨を高くする政策に方針を転換しています。そして、それから遅れること10か月、とうとう債券バブルが崩壊し、デフレの時代は終わりを告げ、インフレ時代の幕開けとなったのです。

ほっとけばインフレになる時代がやってきたのに、通貨安政策なんて続けていたらどうなるでしょう。それは非常に危険なことです。ドイツの賢明な首相はそのことに気が付いた、とは考えられないでしょうか。

 

中国は元安に苦しんでいる

G20各国は「通貨切り下げをするな」というメッセージ一番どの国に送りたかったのかというと、それは中国ではないでしょうか。中国はもっとも露骨に顕著に為替操作を行っている国です。しかし、その中国は最近元が安くなりすぎてしまい、今は必死に買い支えていると言います。

 

日本もヤバい

我らが日本も黒田バズーカと呼ばれる異次元の通貨安政策を取っているのですが、これもヤバいです。前述した通り、同じく通貨安政策を取っていたECBはすでにその方針転換を示唆しています。しかし、日本の場合は規模が大きすぎ、実施期間が長すぎてそう簡単に政策を変更できないのです。つまり、超大規模な通貨安政策を取り続けざるを得ないのです・・。

円高論をおっしゃる方にはこの辺の視点が感じられず、まるで円高が悪いことかのように書いている方が多いのですが、この感覚はもう古いと言わざるを得ません。

今はすでに、「円高=正義」の時代に突入しているのではないでしょうか。日本のマーケットには円安株高という絶対的なトレンドがありますから、「円高は悪くて、円安はいい」という感覚に固執してしまうのは分かりますが、私に言わせると、こんな無茶苦茶な政策をしていて、円高にしてもらえるはずがない、ということなのです。

もし、仮にトランプ政権が円高に誘導してくれるならば、私たちはそれを恐れるのではなく、喜べばいいのです。しかし、トランプさんはそんなお人よしではないでしょう。

最終的に待っているのは、「悪い円安」で、その恐ろしさは円高の比ではありません。だって、円高、デフレで我々庶民の生活は困りましたでしょうか? 確かになんとなく暗い感じ、停滞感はありましたが、物は安いし、私には何一つ困ったことなんてありませんでした。

私は今でも別にデフレでいいじゃん!と思っています。しかし、インフレが加速してしまえば、物価高という今までに経験したことのない苦しみが私たちを襲う可能性があるのです。

ドイツの首相が示唆した言葉は、通貨安によって引き起こされるインフレへの危機感だった可能性がある、というのが当ブログの見解となりますが、果たしてどうでしょうか。