先日、日銀の全国企業短期経済観測調査、通称短観が発表になったのですが、消費者物価指数は-0.2パーセントと前月に比べ、若干その幅を縮めたようですが、10カ月連続でのマイナスでした。デフレです。

現在の黒田日銀は異次元緩和といわれる、超大規模な金融政策を継続していますが、それは何のためかというと、その消費者物価市指数を2パーセントという目標に向かって上向けるためです。つまりは、インフレにするために、そのような政策を取っているのです。しかし、どういう訳かインフレになる芽が一向に見えてこないのです。黒田さんの前、民主党政権下の白川総裁時にもすでに大規模な緩和的な政策を取っていました。

相当な期間超緩和的金融政策を取っているにも拘わらす、全くインフレにならない・・。これには「インフレによって日本経済を立て直すために積極的な金融緩和を行うべきだ!」と主張してきた所謂リフレ派の人たちも意気消沈。最近は、「金融緩和をしてもインフレにはならない」というのが、むしろ定説のような状態になっています。

しかし、「なぜインフレにならないのか」という部分に関しては諸説あるようで、一つの明確な答えはないようです。というわけで、前置きが長くなりましたが、今回はこの部分に関して当ブログ独自の仮説を示してみたいと思いました。私は「異次元金融緩和でも、インフレにならない」という判断を下すのは少々時期尚早ではないかと考えているのですが・・。

インフレはこれからやってくる可能性が高い

それはなぜかというと、私はインフレはこれからやってくる可能性が高いと考えているからです。しかし、そもそもなぜ、日銀はインフレを起こそうとしているのでしょうか。膨らむ一方の政府債務残高を目減りさせるため、というような見解もあったりしますが、今回はそれはおいておいて、景気を回復させるためという方に焦点を当てましょう。

インフレになれば、景気が良くなるというのは、誰もが一度は聞いたことがある話ではないでしょうか。こちらに関しては、私はかなり眉唾の話ではないかと考えています。物の値段が上がれば、景気が良くなるという話には明確な論理的繋がりがないように私には思われます。

だって、なんで?って言われたらよくわからないじゃないですか。事実、インフレで景気が悪くて苦しんでいる国もいっぱいありますしね。

しかし、金融緩和をすればインフレになるというのは、至極当たり前の理屈のように思われませんか? 金融緩和とは世に出回る札の量を増やすという政策のことですが、量が増えれば価値が下がるのというのは、小学生でも知っている当然の相関関係ではないでしょうか。こんな当たり前のことをなかったことにするには、それを上回る当たり前の理由が必要なはずですが、それは私の知る限り存在しません。

 

供給されたお金は街中に出回っていない

では、なぜ実際にそのようにならないのか。日銀は口で言っているだけで実際はやっていない? いや、さすがにそれはないでしょう。これに関してよく言われるのは、「日銀の当座残高に積まれているだけで、実際に街中に出回っていないから」というやつです。

日銀は実際に超金融緩和政策によって、年間80兆円という膨大なお札を世の中に供給することを約束しています。ではその方法はどんなものでしょうか。よくヘリコプターマネーなどともいわれますが、実際にはヘリコプターで空からお札をばら撒いたり、駅前で「日本銀行です」と言って、広告と一緒に札束を配っているわけでもありません。

ではどのようにというと、国債を購入するという手段によって、市場を介して資金を供給しているわけです。その結果、何が起こったかというと、投資家が国債に殺到したのです。つい最近までアメリカの中央銀行も同じような緩和政策を取っていました。またEUの中央銀行も大規模な金融緩和を遅れて始めたのです。そいう言うわけで、世界的に投資家の資金が国債に集まる壮大なトレンドが生まれてていたのです。

まあ、当然と言えば当然ですよね。だって、どんな値段でも中央銀行が買ってくれると約束してくれているのです。こんな楽な投資はありません。結果、世界的に国債は異常な高値まで買われ、金利がゼロパーセントを下回るようなことも常態化していました。投資家は利回りを払ってまで、国債を買っていたのです。中央銀行がさらなる高値で買うと約束してくれるからです。

ですから、金融緩和で供給されたお金は国債市場に留まり続けたと考えられます。日本に限っては国債に直接投資している個人投資家なんてほとんどいないでしょうから、そういう意味での恩恵も非常に少なかったでしょう。金利が下がれば物が買いやすくなるので、副次的な恩恵はあったとは思われますが、インフレにダイレクトに作用するはずの「出回るお札の量」、という部分ではまったく機能していなかった可能性が考えられます。

 

仮説 インフレを抑制していたのも大規模金融緩和

では、国債市場に閉じ込められた膨大なお金、これは一生そこから出てくることはないのでしょうか。もし、仮に出てくるとしたらそれはいつなのでしょう。これは、実はもう始まっていると私は考えています。いつから、それは昨年の10月頃です。そのきっかけはヨーロッパ中央銀行のマリオ・ドラギ総裁が金融緩和の限界を認めたことだと思っています。

ECBのドラギ総裁と言えば、2009年から起きていたユーロ危機を「ユーロを守るためなら何でもする」というたった一言の言葉だけで、救ってしまった伝説のような人です。その後も力強い発言で投資家を鼓舞し続け、EU圏では無理と言われていた金融緩和を実行、その有言実行ぶりから、信用という意味で投資家に相当の影響力を持っている人物です。

そんな彼が金融緩和の限界点を認めた。これは投資家にとって相当の衝撃となったと想像されます。実際にその辺りから世界的な国債価格の下落が起きています。

アメリカは先んじて緩和を終了させ、金融政策の正常化に向かっていましたが、日銀とECBがその後を継いでいました。

「デフレを脱却するまで、どこまでも金融緩和をやるぞ」

今までそう言っていた中央銀行が、

「いや、ちょっともう無理かもしれない」

そう言いだした。しかも、あのドラギさんが。これは一大事、投資家が国債を慌てて売り出す心理も非常に理解できるのではないでしょうか。これが何を表すのかというと、国債に集まって、閉じ込められていた資金がとうとう市中に流れ出したということです。ということは、大規模な金融緩和を続けるということ自体が、市中に回るお金を抑えていたという可能性があり、つまりはインフレを抑えていた可能性があるということではないでしょうか。

これは経済学的な見地では無茶苦茶な理論だと思いますが、マーケット的な見方で言うと、ごく普通のことともいえるのです。株の世界では最高益を発表した直後から下落に転じるということがよくあります。所謂材料出尽くしというやつです。全部が知れた時点で材料をすべて織り込んだ状態になるのです。昨年の秋くらいに国債市場に起きたことはこれではないでしょうか。世界的な金融緩和の材料はすべて出尽くし、国債は下落に転じたのです。これはマーケット的には全く持ってセオリー通りの動きです。

 

日本での行方

ECBは金融緩和の限界を認めました。しかし、日銀はと言うと、まだそうは言っていません。昨年導入した、「イールドカーブコントロール」という新たな政策を継続するとしています。これは、金利をゼロパーセントに固定するように国債を買っていくという方策です。つまりは、想定以上に売られた国債は日銀が全部買う、という大規模というより無謀とも思える政策です。

ですから、先程の私の仮説が正しいのならば、日銀は国債に資金を閉じ込めておく政策を行うため、まだインフレにはなりづらいということになります。しかし、国債価格の下落は世界的なトレンドで起こってきており、日銀がそれに抗することが出来るのかということは、甚だ疑問です。そうなると、年間80兆円というまれにみる規模で国債に投下されたお金が、近い将来、街中に湯水のように流れ出し始める可能性は高いと考えられるのではないでしょうか。まるで、出しっぱなしの水がバケツの中からとうとう溢れだしたかのように。

そして、その先に待っているのは当然大きなインフレです。もし、街中にお金が増えてもインフレが起こらないのだとすれば、先程も書いたとおり、物の量が増えれば、その価値が下がるという小学生でも知っている法則を否定しなければならない必要に迫られると思うのですが、いかがでしょうか。