7月7日、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、2017年3月期までの運用成績を発表しました。それによると、

「年度末の資産額は144兆9034億円となり、自主運用を始めた01年度以降で最大となった」

とのことです。順調に利益が出ているということで、よかった、よかった。ということなのですが、細部まで見てみると、なかなか興味深いことが見えてきます。そして同時に、そこには将来的な不安点も鑑みることが出来ます。

 

GPIFの運用手法

GPIF、現金積み上げ過去最大に マイナス金利で「運用難」

まずは、ロイター通信社のこちらの記事をご覧いただければと思います。そして、GPIFの2016年度と2017年3月期までの運用手法を追ってみたいと思います。

国内株式の年度の含み益は4兆5546億円、外国株式は4兆3273億円だった。一方、国内債券では3958億円、外国債券でも5962億円の含み損を抱えた。

2016年に関しては、株式で儲かり、債券で損をした、ということですね。で、満期を迎えたりして、現金化された資金が、国債の金利低下によって再投資出来ないため、積みあがったままになってしまったと。そして、先行きが不透明で投資先が分からなかった、というようなことを理事長が言ってますね。

このブログでは、昨年の秋以降、国債の価格が下落し金利が上昇、株式に資金が流れる世界的な動き、グレートローテーションが起きてくる様をお伝えしてきました。GPIFの運用成績については、妥当な結果だということが出来るでしょう。

では、2017年3月期までの運用方針を見てみましょう。

推計では、1月からの3カ月間でGPIFは国内株式を10億円程度、外国株式を600億円程度売り越した。一方、外国債券は6000億円程度の買い越しだった

私なんかは、思わず「おい!」と突っ込みたくなるのですが、いかがでしょうか。なぜ、昨年大きな損を出した債券投資を再び? と思うのですが、彼らには彼らの事情もありますよね。GPIFは厚生労働省所轄の独立行政法人で、私たちの大事な年金を預かる機関ですから、当然、投資方針は安全性が重視されています。無謀なハイリスクな投資が、機関投資家個人の細分で可能ということはありません。

国内債券、国内株式、外国債券、外国株式の比率が決まっていて、「儲かりそうだから」と、この方針に逆らうことはできません。ですから、私たちの投資家の腕前が悪い、ということでは決してないはずです、きっと・・。

 

株はハイリスクで、債権はローリスク?

現在のGPIFの投資の組み入れ比率の構成は以下です。

画像:基本ポートフォリオ(国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%)

意外と株式の比率は高いですね。これは安倍政権が2014年に株式組入れ比率の引き上げを行ったからですね。株価対策、と揶揄され、私もそのように思っていましたが、結果からすると、正解だったと言えるのではないでしょうか。

 

債権の今後

先程、昨年の秋以降、グレートローテーションが本格化してきた様をお伝えしてきた、と書きましたが、その動きはまだまだ始まったばかりだと当ブログでは考えています。これが正しいと仮定すると、債券価格の下落と株式の上昇は続く、ということになります。

債券価格の下落は続く、にも関わらず、債券が安全資産とされる理由は何でしょうか。それは満期になれば、元本が保証されって返ってくるからですね。株式は当然のように元本は一切保証されません。銘柄によっては、ゼロになってしまう可能性すらあります。債権が安全というのも頷けます。しかし、違う角度から今の情勢と合わせて見てみると別の物も見えてきます。

確かに債券は元本が保証されますが、あくまで満期まで持っていれば、です。株式と同じように途中売却も出来ますが、価格が下がっていれば当然損が出ます。繰り返しますが、債券価格は今後、長期的に下落していく可能性が高い、すなわち債券投資は一度投資したら、満期までまったく資金が動かせなくなるか、損切りするしかなくなる、と言えるのです。

これはこれでリスクですね。満期まで解約できない、投資というより、定期預金ですよね・・。

「低金利で運用難」、これは解決される可能性が高いでしょう。債券価格が下落すれば、金利は上昇していきます。世界の中央銀行が金融政策の正常化に動く中、日本は大規模な金融緩和を継続する方針で、比べて金利は低く抑えられる可能性が高いです。GPIFが日本国債を売り、外国債を買った理由はこれでしょう。

例え債券価格は下がったとしても、なにはともあれ、持っていればいいのだから・・、そういう方もいるかもしれません。しかし、同時に考えなければならないもう一つのリスクは、インフレです。インフレリスクを見ているからこそ、各国中央銀行は正常化に動いている、と言えるのです。償還された現金は目減りしているかもしれません。こう考えると、果たして安全だと言えるのでしょうか。

 

株式の今後

対して、株式の方はどうでしょうか。昨年の夏以降、アメリカ株を中心に世界の主要株式市場は非常に波乱の少ない、下がりにくい状態が続いています。昨年の初頭にあれだけ荒れた日経平均株価もここ半年は大きく下げることなく、ずるずると上昇するような動きが続いています。

簡単に言うと、これは株式が安全資産化してきています。私はちょうど一年前の記事でこのようなう仮説を立てさせていただきました。

「アメリカ株は半国債化しているのではないでしょうか。」

やっぱり変! 一向に下がらないNYダウ、アメリカ株価指数 ~米株は第二の国債化へ?~

世界の投資家は、この現状に、半ば強制的に株式を購入し始めたのではないでしょうか。これが最近の異様に下がりにくい株式市場の主因ではないでしょうか。これまで機関投資家は金利が低く、時にマイナスでても、「債券価格は上昇する」、という保証のようなものを頼りに、売却益を求めて国債投資を続けていたと考えられます。その保証とは、各国中央銀行の金融緩和です。

中央銀行が買い続けるのだから、国債は下がらない、それが彼らの投資の根拠だったのです。しかし、アメリカは2015年にいち早く国債の購入を終了し、ヨーロッパ中央銀行も昨年、金融緩和策の限界を認めました。世界の投資家はきっと、こう考えたでしょう。「これからは、国債の売却益で稼ぐのは難しいだろう。もう、中央銀行は、私より高い値で買い取ってくれなくなるのだから」

そして、株式に大きな資金が流れるようになった。実際、特に米株はもう一年近く、一度の大きな波乱もなく、まるで安全資産のごとく君臨、上昇を続けています。

 

私はこの動きはまだまだ継続し、いずれみんなが安全だと言って、株を買う時がやってくるような気がします(そのころは危ないかもしれませんが・・)。債券と株式の価値観の転換が起き、それこそ所謂グレートローテーションで、GPIFは更なる株式組み入れへ追い込まれるのではないか、と考えますが、いかがでしょうか。