さて、いきなりですが、当ブログでは昨年より、「通貨安競争は終わりを告げ、通貨高競争の時代がやって来る」と予想しておりましたが、昨今の経済ニュースを見ている限り、実際その通りになってきた! ということは明確ではないかなと思うところです。

FRBが6月のFOMCでインフレへの懸念から、バランシートの縮小を示唆し、ECBが金融政策にタカ派な見解を示し、イングランド銀行のカーニー総裁も利上げを支持、カナダ中央銀行の利上げの示唆はサプライズとなり、カナダドルが急騰しました。

これらを受けて、各国中央銀行が、一斉に金融引き締めに動き始めた、と一般的に伝えられるようになっています。しかし、当ブログに以前から訪れている方においては、10カ月も前からこうなることを知っていたのです。

 

FRBを追いかける各国中銀

どうして円安株高なのか ~やがては通貨”高”競争に?~

アメリカの金融緩和に各国が追随したように、今度は金融政策の正常化に各国が追随する時がやって来るように思います。それは各国が今度は通貨高を求めるようになるということです

これは、私が2016年の8月13日に書いた記事です。

ポロズBOC総裁、ドラギECB総裁、カーニーBOE総裁がタカ派的な発言をしており、量的引き締めQT(Quantitative Tightening)の先陣を切っていたイエレンFRB議長に追いつこうとしている

~ トレーダーズ・ウェブ ~

これは2017年の6月30日のトレーダーズ・ウェブの記事です。そして、もう一つ、当ブログでは今年の3月にこう宣言させていただきました、「通貨安競争は終わりを告げた」と。

通貨安競争はすでに終わりを告げた! ~インフレ時代の正義は通貨高に?~

もちろん、全ての読みがこのように的中する訳ではないすが、これはなかなか良いお伝えが出来たなと自負しているところです。

 

カギを握るヨーロッパ中央銀行

6月27日、ECBのドラギ総裁が、「インフレ率を抑制しているものは一時的で、現行の政策を微調整する余地がある」、と発言すると、ユーロと債券利回りが急騰を見せました。私は最初、この動きを見たとき、「さすがのドラギの影響力だな」と好意的に捉えていました。

というのも、世界のインフレ率のカギを握るのは、このECBのドラギ総裁ではないかと睨んでいたからです。

昨年の秋以降、世界的に債券が売られ株が上昇する、グレートローテーションが本格化してきたわけですが、この出発点はドラギさんが、金融緩和の限界を認めたところにある、と考えてきました。けっして、アメリカのトランプ大統領の力ではないと。

そんな中、同じく金融界のカリスマ両巨頭の一人とも言えるFRBのジャネット・イエレンさんが、6月のFOMCで利上げとバランスシートの縮小を発表した際のマーケットの反応は、まさかの無風で、これには私も驚きました。「マーケットはFRBを信用していない」などという記事も散見され、私も「イエレンさんの神通力にもとうとう陰りが見えてきたのだろうか」と少々、ネガティブに思っていたのです。

しかし、ドラギ総裁が発言の次の日、「マーケットは誤解している」と慌てて火消しに動いた様を見て、その見解はまったく違っていたことに気が付きました。中央銀行は今はもう、マーケットをまったく動かしたくないのだと。

ドラギ総裁と言えば、「ユーロを守るためなら何でもする」というたった一言で、ユーロをどん底から救い出し、今度は不可能と言われた量的緩和やマイナス金利を導入して、ユーロ安を導きだし、EU圏をデフレの危機から救った伝説の男です。彼はそれまで、まさにドラギマジックという言葉の通りに、マーケットを自由自在に操ってきました。

しかし、その時代はすでに終わっていたのです。時に目立ちたがり屋にも見える?彼ですが、今は、きっとこう思っていることでしょう。「投資家の皆さん、もう私に注目するのは止めてください」

 

中央銀行が畏れるものは

では、そんな伝説の男、ドラギ総裁が今、最も怖がる物とはなんでしょうか。それは金利の急騰ではないでしょうか。金利が不必要に騰がってしまうと、実体経済を失速させてしまうからです。今、やっと温まり始めた世界経済を奈落の底に突き落としてしまう可能性があります。これは実に簡単な理屈です。金利が高すぎたら、自動車を買うことをみんな止めてしまうでしょうから。

さて、話を少し戻しますが、この考えからすると、投資家から無視されたFRBのイエレンさんは実は理想的な状況だった、ということになりますね。彼女が投資家に最も求めた反応は、「無視」だった。私の気が付かない間に、イエレンさんは、さらっと実にすごい仕事をしていたのです。彼女には、時にマーケットを掌握しているのではないか、と思えるほどのすごみがあります。

そして、もう一つ、非常に重要なことがあります。このグローバルなマーケットの世界において、1国の金融政策の影響は、当然その国だけにはとどまらないということです。FRBが利上げし、ECBが量的緩和を解除すれば、彼らだけではなく、世界中の金利が上昇するということです。

これが示すことは、金融緩和の解除は早く始めた者勝ちってことじゃないでしょうか。だって、主要各国が引き締めに動くたび、金利が騰がっていくのです。後になればなるほど、やりにくくなっていきます。これが通貨高競争です。この競争に勝っていれば、もし、仮に今後景気が悪化するようなことがあっても、金融政策を転換できる余地を持つこともできます。

現状、アメリカはこの競争のトップを独走しています。イエレンさんには誰も勝てないのです。ですから、当ブログではずうっとこう主張してきました。「ジャネット・イエレンは天才だから、彼女の言うことを聞いておけばいい」と。

将棋で藤井聡汰さんが、デビュー後に29連勝して天才だと騒がれておりますが、イエレンさんもFRB議長としてデビュー後、未だ無敗だと思いますけどね。投資の世界では29連勝を目の当たりにしてから気づくのでは遅いのです。

 

日本はビリケツ

そして、繰り返しお伝えしておりますが、この競争に大敗を喫することが確実視されるのが、我らが日本です。日銀が緩和を解除しようと思う時、他国の金融政策によって、金利はすでに相当騰がっているでしょう。アメリカが利上げに動いたとき、世界の長期金利はゼロパーセントからマイナスのところも多い状態でした。彼らがどれだけ有利だったかが分かりますね。

では、通貨高競争に敗れた日本はどうなるのでしょうか。当然、通貨安になりますよね。また、緩和解除の遅れから、悪いインフレが進むリスクも相当高いように思われます。しかも、日本の場合は金融緩和が大規模すぎて、まともな出口さえ見出せない状況です。これを知ってか知らずか、日銀は発表せずにこそっと国債の購入額を減らす、隠れテーパリングを実施しているとか・・。

日本銀行が今月から適用した長期国債買い入れ運営方針を1年間継続すると、年間の購入目標を18%下回ることを意味する。このため、密かなテーパリング開始ではないかとの観測が投資家の間に浮上した

   ~ ブルームバーグ ~

こんなせこい方法で投資家を騙し続けられるはずはありません。残念ながら、日本の金融政策の行く末は沈没である可能性が極めて高いと言えるのではないでしょうか。通貨の価値の方向としては、当然「いい円高」ではなく、「悪い円安」に決まっていると私は思います。