きたー!!!

最悪の場合、EUはイギリスとの新たな貿易関係を規定した「貿易協力協定」(2020年12月合意)の効力停止まで視野に入れていると報じられている。

仮にそうなれば、世界貿易機関(WTO)加盟国どうしの一般的な通商関係に回帰することになる。それは要するに、離脱協議のさなかにさんざん指摘された「合意なき離脱」の再来を意味する。

コロナ危機に隠れ、EU離脱のイギリスに大混乱の兆し。アイルランド国境問題で住民間の「内戦」も懸念 BUSINESS INSIDER

当ブログが、世界史上において「最も美しい軍事作戦」と位置付ける、「ロンドン派」によるEU離脱ペレーション。その結論は、「合意なき離脱」以外にありえません。

今回は久方ぶりに、このEU離脱作戦を振り返ってみたいと思います。陰謀論では味わえない、完璧なまでに洗練された彼ら一流の策略の妙に触れることが出来るはずです。

なぜEU離脱か?

ご存知の通り、EU離脱は2016年のイギリスの国民投票で決定されました。この時、世界の金融市場は急落、ドル円は100円を割り込み、瞬間的に99円を付けました。

この時の99円は長期的な底になると予測し、未だに破られていません。この時の金融市場は悲観一色、その後の米国のトランプの選出によって、更なる混乱が広まるかに思われました。しかし、そんな投資家の思惑をあざ笑うように、NYダウは倍以上に暴騰したのです。

EU離脱キャンペーンを展開、成功に導いたのが、現在のジョンソン首相とナイジェル・ファラージです。その後、世界的に右派勢力が台頭していきました。

昨年を振り返ると,英国のEU離脱(Brexit)への国民投票結果と米国大統領選でのトランプ氏の勝利という世界的なインパクトを持つ2つのショックがあったが,その背景と要因については多くの共通点が指摘されている。移民排除,格差拡大,反グローバリズム,反エスタブリッシメント等々である。

Brexitはトランプ現象と同根なのか 世界経済論IMPACT

私はこの派閥を「ロンドン」と名付けました。ロンドン派の目的とは何でしょうか。

ドナルド・トランプ米大統領は、欧州連合(EU)が貿易上の敵だと述べた。米CBSニュースの15日放送インタビューで発言した。

トランプ氏、EUは貿易上の「敵」 BBC

もちろん、それは「敵」を倒すことです。

これに関して、米ハドソン研究所のウォルター・ラッセル・ミード(Walter Russell Mead)による論説‘Trump’s Case Against Europe’(6月3日ウォール・ストリート・ジャーナル紙掲載)は、トランプのEU嫌いの理由を下記の5つに整理しており、興味深い。

(中略)

4. EUは、死刑、気候変動、グローバル・ガバナンス、ジェンダーの問題などについて、自らの好みの政策を輸出しようとしている。米国のジャクソン主義のポピュリストは、如何なる形のグローバル・ガバナンスにも深い疑念を有するし、EUがこだわる多くの主義主張-LGBT、パレスティナ国家、二酸化炭素-も好みに合わない。

(中略)

筆者が指摘する上記の5つの要素は、成程と思わせるものである。トランプがBrexitをけしかけ、ドイツに無遠慮に圧力をかけ、イラン核合意を潰すためにEU+3に強硬な態度を維持する理由も或る程度は理解出来る。

トランプがEUを嫌う5つの理由 wedge INFINITY

ハドソン研究所の挙げるトランプ政権とEUの対立理由5つの項目のうち、特に4が興味深いですね。これはそのまま、現在においてもEUが過激に進める政策ですね。「ロンドン」は初めから、これらの抵抗勢力だったのです。

EU離脱とは、この枠組みからイギリスを取り戻す軍事作戦なのです。

「ロンドンの政治エリート達」が2016年の国民投票の結果に背くことをEUと画策しているため、10月31日の離脱期限に疑問符がついているという。

ファラージ氏は、英国は17世紀のイングランド内戦以来最大の紛争状態にあり、ジョンソン首相はメイ前首相がまとめた合意を蒸し返そうとすることで保守党に崩壊のリスクをもたらしていると指摘。

EU離脱、再び延期される見通し=ファラージ氏 ロイター

ナイジェル・ファラージはそれを、「政治エリート」との紛争と表現しました。

離脱オペレーション概要

では、実際にロンドン派が、如何に「政治エリート」を出し抜いて、EU離脱を成し遂げようとしたかを振り返ってみましょう。

彼らは、2016年にジョンソンとナイジェル・ファラージの活躍によって、EUを離脱するという選択を勝ち得ました。しかし、ここから本当の戦いが始ります。「政治エリート」は、離脱自体をなかったものにしようとEUと結託したからです。

しかし、離脱の刺客として表れたのが、テリーザ・メイ前首相です。彼女は、ジョンソン以上の決定的な仕事をしています。

この記事に詳しく出ています。

【解説】 テリーザ・メイ氏の物語 ブレグジットに倒れた保守党党首

BBC JAPAN

まず離脱に期限を設けたのは、彼女です。

EU離脱を通告するリスボン条約第50条を発動させ、2019年3月29日までに離脱すると立法へ持ち込んだのはメイ首相だったが、EUと離脱協定は3回も採決にかけたにもかかわらず、下院の支持を得られなかった。

彼女が期限を設定したおかげで、「合意なき離脱」という概念が出来てしまったのです。さらに・・

それだけに、2017年4月にいきなり解散・総選挙を発表した際には、英政界に激震が走った。

この方針転換は、南西部ウェールズで休暇中に夫フィリップ氏と散策しながら思いついたものと言われている。

散歩中の思い付き!で議会を解散させ、大敗。結果、強硬離脱路線のDUPを抱え込む羽目になりました。

10議席のDUPは強硬なブレグジット支持政党で、そのDUPの支持を必要としたことから、メイ首相がEUとまとめた離脱協定の下院承認を得ようとする過程において、イギリスにおける北アイルランドの地位や、北アイルランドとアイルランドの間の国境の扱いが、大きな難問として際立つようになった。

誰にでも分かります通り、合意できないように問題を大きくしたのは、メイさん自身なのですね。こう言うのを自作自演といいますよね?

当時、メイさんは、よくやっているのに!って書いてる人が結構いたんですよね。素人はともかくね、プロとしては、完全に失格です。

まあ「よくやってる」のは、間違いないかもしれませんが・・。

順を追って覧になれば「合意なき離脱」の土台は、すべて彼女が構築したことがご理解いただけると思います。ここまで全ておぜん立てした上で、メイさんはジョンソンにバトンタッチしたのです。

その後、ジョンソン君がなにをしたかと言えば、散々議会に拒否されたメイの時とほぼ同じ協定案をEUと合意してきて、「これはすばらしい合意だ!」と豪語したのです。

メディアとアナリスト達は、ジョンソンの言葉をそのまま信じてしまいました。それがなぜかと言えば、ジョンソンの離脱協定案が、議会を通過しそうだったからです。

「ほとんど一緒」なのに、なぜ成立しそうになったのかと言うと、ジョンソンの部下の強硬離脱派が賛成に回ったからです。

これは実にシンプルなトリックです。「中身」なんて誰もまともに読まないし、詳細なんて誰にも理解出来ませんから、まんまと、ジョンソンは「稀代の政治家」の評価を手にしました。

その後にジョンソンは、不可解にも協定案の採決をとらずに、総選挙に突入します。通過するはずの協定案の採決をとらずに総選挙ですよ・・。

ナイジェル・ファラージのブレグジット党のアシストを受けた保守党は、圧勝。議会は、強硬離脱派だらけになります。そして2020年の年明け、ジョンソンは、EUとの合意から改変した協定案を成立させたのです。

つまり、2019年末のEUとの合意は単なる嘘だったというわけです。

尚且つ、ジョンソンは「早期の離脱」を掲げて選挙で圧勝しましたから、早期の離脱≒合意なき離脱は、結局、国民の望みであるという究極のシナリオが成立。

合意なき離脱に伴う混乱の責任を国民に擦り付ける手はずまで、取り付けていました。

これはねえ、本当に凄いですよ。

小選挙区制の奇妙な点は、過半数の票すら獲得しなくても「地滑り的」勝利が起こり得るということだ。ボリス・ジョンソン首相が今回安定過半数を得たのはまさにそんな一例だが、興味深いのは、テリーザ・メイ前首相の下で保守党が「惨敗」し、不安定な連立を組む羽目になった2017年の得票率(42.4%)と比較して、ジョンソンがそれを多少上回る程度の得票率しか得ていないことだ。実際、彼はメイよりほんの33万票上回る票を獲得しただけだが、労働党の票が崩壊したために、保守党圧勝につながった。

数字から見る英総選挙の結果とイギリスの未来 Newsweek 日本版

そして更に何と! 2017年のメイの惨敗と2019年のジョンソンの圧勝の得票数は、ほぼ同じだったのですから! 

ロンドン派のシナリオは完ぺきなまでの道筋で、完成に向かっていたのです。簡単に言うと、究極の詐欺です。詐欺もここまで行くと、芸術的レベルで、驚嘆に値します。

完璧なまでに緻密に計画された完全犯罪、しかし、それでも彼らには最後には、落とし穴が待っていました。それは、米国の大統領選挙でのトランプの敗北です。

「合意なき離脱」は、米国がトランプ政権であることが絶対条件だったので、ジョンソンはトランプの敗北を受け、方針を急展開せざるを得ませんでした。

2020年の合意は、事実上、四度目の延期です。

ロンドン派にとって、合意はあり得えません。今回、米国の選挙で共和党が再び優勢となった情勢に合わせて、この問題が再び俎上に上がってきたのです。

それは寝かされていただけだったのです。

ロンドン派の起源

それでは最後に、国際政治上において圧倒的な諜報力を誇る「ロンドン派」の起源に触れて終わりにしたいと思います。

18世紀は武人型国王による下剋上のような時代であるが、この時代に大きな繁栄を遂げたのはイギリスである。18世紀、イギリスは「王の時代」と逆行するかのようであった。

イギリスでは王権が制限され、首相と議会の力が強まった。

「ヨーロッパ王室」から見た世界史

王家と議会のコラボレーション、これが世界支配システムの根幹のようです。

イギリスは「王は君臨すれども統治せず」のシステムをつくりあげ、ハノーバー朝のつづく19世紀には世界帝国を誇るようになる。

現在のイギリス王朝は後継のウィンザー朝ですが、そのルーツはドイツの王朝、サクス=コバーグ=ゴータ家にあるようです。

ロンドンのルーツは、ドイツだったというオチです。彼らは今、離婚の泥沼係争の真っ最中です。

これでトランプが、EU(ドイツ)を敵視する理由がはっきりしましたね。配偶者が最大の敵だったという、どこにでもある話です。

「合意ある離婚」なんて、あると思いますか?

結論は、出会った瞬間から決まっていたのです。