1月3日、アメリカがイランのソレイマニ司令官を空爆で殺害、イランがその報復に米軍基地にミサイルを発射し、「米国人80人以上を殺害した」と発表しました。これを受けて世界中に緊張が走り、中には第3次世界大戦か、などと煽るメディアもありました。
しかし、一転トランプは「これ以上の反撃はしない」と言明。イランも結局攻撃を事前に通知していて、さらなる紛争激化を避ける配慮を見せたという観測もありました。そして、実際に米イラン両首脳とも「戦争は望まない」と発言していました。
「ほら、流石に戦争はないって言ったでしょ!」安堵とともに意気揚々と言う方も多かったではないでしょうか。これは良かったとはいえ、しかし、そうなると、ある謎が残ります。アメリカはなぜこのタイミングでソレイマニ司令官を殺害したのでしょうか。
メディアお得意の「トランプの気まぐれ」で説明するには、今回はさすがに無理があるんじゃないでしょうか。
イラン悪魔化はプロパガンダ
もう題名にしてしまっていますが、当ブログがこれについてどう考えているかをもったいぶらずに書くと、アメリカはイランの政権を転覆させ再び親米政権を樹立するつもりなのではないか、と言うことになります。
なぜそう考えるかと言うと、トランプ政権の戦略上、中東から米軍が撤退することは非常に重要だからです。その際に一番のネックになってくるのが、現在のイラン・イスラム共和国の存在なのです。
アメリカとその同盟国イスラエル、彼らの理論では、今のイランは悪の枢軸らしいのです。これについて、イスラエル支配の日本メディアからしか情報を入手しない日本人の大半は、こう思っているはずです。少なく見ても、
「どっちもどっちだ」
ですが、これは誤った見方だと断言していいと私は思っています。
この点、イスラエルと米イスラエル・ロビーの強硬派、ジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官、マイク・ポンペオ国務長官らタカ派の思惑は一致している。
彼らの最大の懸念は、アメリカと中東の同盟国がイランを正当な中東の大国と認めざるを得なくなること、イランが中東である程度の影響力をもつのを認めなければならなくなることだった。
イランが中東を支配しようとしている、という話ではない。イランはおそらくそんなことをめざしていないし、達成できる見込みもない。問題は、中東におけるイランの権益を認めなければならないことであり、その結果、地域の問題について話し合うときには、イランの意向も考慮せざるを得なくなるということだ。
これは、イランが国際社会から孤立した「のけ者」であり続けることを望むアメリカのタカ派にとって、受け入れがたい事態だ。
NEWSWEEK 日本版 イラン核合意離脱でトランプが狙う「体制転換」シナリオ
イラン悪魔化、これはアメリカを支配するイスラエルのタカ派による馬鹿げたプロパガンダに過ぎず、彼らはただ虐められているだけだということです。
この地域を支配する米国とイスラエルの能力が制限されるからだ。たびたびこの二国が振るう暴力も制限される。これが「イランの脅威」といわれる考えの本質だ。
ノーム・チョムスキー 『誰が世界を支配しているのか』
しかし、その理由の正当性如何によらず(実際彼らはそんなことには全く関心がないので)、イスラエルにとってイランが脅威だというのは、本当のことです。
ですから、トランプ政権が中東からの撤退を進めるには、今のイランをどうにかすることが絶対条件になってくるのです。
イラン革命
では、彼らはいったいどのようにするつもりなのでしょうか。その前に、今のイラン・イスラム共和国がいったいどういう歴史で存在しているのかを簡単に見てみたいと思います。
イラン革命(イランかくめい、波: انقلاب ۱۳۵۷ ایران)は、イラン・パフラヴィー朝[1]において1978年1月に始まった革命である[6]。亡命中であったルーホッラー・ホメイニーを精神的指導者とするイスラム教十二イマーム派(シーア派)の法学者たちを支柱とする国民の革命勢力が、モハンマド・レザー・シャーの専制に反対して、政権を奪取した事件を中心とする政治的・社会的変動をさす。民主主義革命であると同時に、イスラム化を求める反動的回帰でもあった。
wikipedhia
現在のイランは、民衆が蜂起し親米政権を倒した ことによって、樹立された政権だったのです。それは本物の民主主義、とも言える市民革命でした。
革命で退位に追い込まれたイランの故パーレビ(Mohammed Reza Pahlavi)国王の息子、レザ(Reza Pahlavi)元皇太子(59)が15日、亡命に近い生活を送っている米国で記者会見に出席し、イスラム教最高指導者が率いるイランの現在の体制は数か月以内に崩壊するだろうと述べ、欧米の主要諸国に対してイラン政府と交渉しないよう促した。
AFP 米に亡命の元皇太子「イランの現体制は数か月以内に崩壊する」
そのイラン革命によって、失脚した元皇太子はこう語っています。アメリカは民主主義の権化のように言われることが多いですが、これも出鱈目です。彼らは自分たちの言うことを聞く独裁者が大好きなのです。例えば、中東ではサウジアラビアなどが有名ですね。
番犬は獰猛(どうもう)で主人に忠実なほうが役に立つし、実際米国は、南米や中東では、民主主義政権よりも独裁政権を飼いならすことが多い。
ZAKZAK by 夕刊フジ
イランでは見事に彼らの番犬は、民衆によって倒されてしまいました。国際政治学者の高橋和夫さんは、イランは中東で、ただ一つのパレスチナ人の本当の国家だと言います。その国民の米国の中東政策に対する反感は強烈であって、嘘の独裁者はそれによって倒されたのです。
ですから今のイランの体制は本物の民主主義と言え、その点では我々より遥かに立派です。 彼らは自分たちの主権のために命がけで戦っているのです。恐らく勝てないことも承知の上で。
比べて私たちは、単なるイスラエル支配です。 勘違いしてはいけません。 そして、これは言い換えると、イギリス支配とも言えます。
彼らは再び、番犬でイランの民衆を抑え込むつもりではないでしょうか。そして、それがイスラエル、イギリスの意志であり、アメリカの中東撤退の条件という訳です。
米国とその同盟国は、何があってもまっとうな民主主義がアラブ世界に生まれることを阻止する考えだ。
ノーム・チョムスキー 『誰が世界を支配しているのか』
ところで、これは余談ですが、なぜ日本ではイギリス王室のゴシップをトップニュースで報じるんですかね? 我々日本人にとって、関係のない彼らのスキャンダルなど、全くどうでもいいはずで、個人的には「一々お茶の間に割り込んでくんじゃないよ!」とすら思っています。
はっきり言って、不快です。
例えば、これがノルウェー王朝だったらどうでしょう? 誰もが首をかしげるでしょう。 メーガン妃? は? 誰じゃそりゃ! それならユッキーナと乾選手の話の方が全然おもしろ・・ ・・イギリス王室、我々といったいどんな関係があるというのでしょうか? 甚だ不思議なお話です。
「ウクライナ機」疑惑
さて、今まで書いて来たことを念頭に置くと、奇妙な事実が見えて来ます。
イランでは軍が8日に民間旅客機を誤って撃墜したことに民衆の反発が高まっている。ハメネイ師は撃墜について「不幸で悲しいできごと」と指摘した。一方で「撃墜をイランを弱めることに使っている敵がいる」として、政府の対応を非難する抗議デモの参加者を間接的に批判した。
日本経済新聞 ハメネイ師、「反米」で結束呼びかけ 8年ぶり演説
ウクライナの旅客機が誤って撃墜されるという事件が起きましたが、これが敵によってデモの扇動に使われているとハメネイ氏は言います。アメリカが敵対的な政権の転覆のためのデモを支援していることは周知の事実です。つまり、これはアメリカの求めに応じて、「幸運にも」事故が発生するという、いつものパターンが繰り返されたことになります。
『十万分の一の偶然』が再び起きたのです。
でも、今回はイランが誤って撃ち落としたと認めているし・・と言うのは、確かにあります。しかし、イスラエルはモサドという非合法活動も思いのままの世界最強の諜報機関を持っています。彼らが故意に撃ち落としたと考えてみることは、無駄ではないと私は思います。
それに彼らはテロリストですから、何をやってもおかしくありません。
シンクタンク「ハドソン研究所(Hudson Institute)」で演説したレザ氏は、イランで昨年11月に大規模デモが行われ、今月ウクライナの旅客機が誤って撃墜された後にも同様の抗議運動が起きたことについて、1979年に自身の父を退位に追い込んだ革命が思い起こされるとして、「ヤマ場を迎えるのは、時間の問題だ。今は、そうした状態にあると思う」と続けた。
AFP 米に亡命の元皇太子「イランの現体制は数か月以内に崩壊する」
もし、彼の言う通りの「ヤマ場」が訪れた場合、私の話は馬鹿げた話ではなくなるでしょう。
イラン転覆作戦の可能性
2003年のイラク戦争は、当時のブッシュ政権の上層部にいた好戦的なネオコンたちが「イラクが大量破壊兵器を開発している」という誇張・捏造の情報を、ウソと知りながら開戦事由として使い、イラクに濡れ衣をかけて本格侵攻して政権転覆した戦争だ。事後に、侵攻前のイラクが大量破壊兵器を開発していなかったことが確認され、開戦事由がウソだったと判明した。イラク戦争は、米国の国際信用(覇権)を失墜させた。米国はその後、リビアやシリアなどに侵攻するかどうか判断を迫られるたびに、本格侵攻しない(空爆と特殊部隊の派遣でごまかす)方を選択し続けている。イラク戦争は、米国上層部の安保担当者たち(軍産複合体)にとってトラウマとなり、米国は「戦争できない国」になった。 (The Media’s Shameful Handling of Bolton’s Iran Threat Claims Recalls the Run-up to the Iraq War)
しかし今回、米国は16年ぶりに、今度はイランに対して、開戦事由をでっち上げて戦争を仕掛ける演技を開始している。
田中宇の国際ニュース解説
アメリカは2003年のイラク戦争で大嘘をこき信用が失墜、戦争が出来ない国になったと言います。「戦争は望んでいない」トランプ大統領のこの言葉は嘘ではないかもしれません。実際彼らにその余裕はないように思えます。しかし、ウクライナ機の撃墜をきっかけとした、政権転覆計画だった場合どうでしょう。
しかし、最初の出来事が起こる20日近く前の昨年の12月9日、イランとの戦争が近いとする情報が方々からあった。
(中略)
だが今回は、ある条件を加えることで安全保障条約の締結が合意されたという。
その条件とは、安全保障条約の適用範囲をイランに限定するというものだ。つまり、イスラエルかアメリカのどちらかがイランの攻撃を受けた場合、一方の国もイラン攻撃に共同で対処するということだ。
(中略)
アラスティア・クルックの記事では、ネタニヤフ首相の側近の1人が「これはイランを攻撃する絶好の機会となる」と発言したことを紹介し、半年以内にイランとの戦争が始まる可能性が非常に高いとして、注意を喚起した。
もし今回のソレイマニ司令官の殺害でイラン攻撃が始まるとすれば、それは気まぐれなトランプの後先考えない決定が原因ではなく、事前に存在してい計画を実行したことになる。
MONEY VOICE
いったん落ち着き終了したかに見える、アメリカとイランの軍事衝突ですが、しかし、なぜ今トランプは、ソレイマニ司令官を殺害したのか?という謎が残ったままになっています。
「選挙対策」、メディアはトランプの行動の全てをこのたった一単語で処理しようとしますが、これで納得できるという方はうちのブログを訪れないでしょう。
それではなぜいまの時期に、こうした計画が実行されたのだろうか?
上のアラスティア・クルックの記事によると、イスラエルの関係筋の情報として、それはイランの体制転換の計画が失敗したからだという。
イスラエルはかなり以前からイランの体制転換を計画し、そのための要員を養成し訓練していた。このいわば体制転換のためのクーデターは、今年の春ころに実行される予定だった。
(中略)
しかし、計算通りには進まなかった。ガソリン価格の上昇への抗議として始まった運動は、基本的の平和的なものであり、暴力化することなく、11月中には終結する方向に向かった。
体制転換を目的に活動していたイスラエルは、いわば梯子を外された格好になった。その結果、自分たちだけで体制転換の反政府運動を引き起こそうと、一か八かの破壊的な賭けに出た。
しかし、平和的なデモの後に始まった新たな暴力的な反政府運動はイラン治安部隊の標的となり、徹底して鎮圧され、大勢の死傷者が出た。イスラエルが計画したイランの体制転換は完全に失敗した。
(中略)
そして、この計画が失敗したイスラエルは、「アメリカーイスラエル安全保障条約」の締結をテコにして、アメリカを引き込んでイランと戦争状態になり、イランの本格的な体制転換を実施するという方向に転換した。
(中略)
すると、ソレイマニ司令官の殺害は、戦争に向かう最初のスイッチだった可能性が高い。
そう、戦争は終わったどころか、まだ序章である可能性が高いと分析できるのです。そして、私の勘では、今度はとうとうやるつもりではないか、と言う感じがします。昨年末に閣議決定された自衛隊の中東派遣についても、タイミング的にその意図が推察できますよね。
そのきっかけとなったタンカー攻撃も、アメリカ、イスラエルによる自作自演だったことは誰の目にも明らかです。
イランとサウジの対立でも、イランの優勢が増している。それを知りながら、イランが米サウジ側を攻撃するはずがない。むしろ米諜報界傘下のテロリスト系勢力(アルカイダIS)が、イラン系の犯行のふりをして挙行した濡れ衣攻撃(偽旗攻撃)である可能性の方が強い。空母派遣の口実を、あとからでっち上げた感じだ。
田中宇の国際ニュース解説
全く支持できない米国、イスラエルの中東戦略
しかし前述した通り、アメリカとイスラエルの中東戦略は全く支持に値しないことは明らかです。
しかし、平和的なデモの後に始まった新たな暴力的な反政府運動はイラン治安部隊の標的となり、徹底して鎮圧され、大勢の死傷者が出た。イスラエルが計画したイランの体制転換は完全に失敗した。
アメリカは「デモを鎮圧するな」、とあたかもイラン国民側であることを宣伝していますが、この記事の通り、先に暴力を仕掛けているのは、米国、イスラエルの方なのです。彼らはいつもそうです。
もちろん、攻撃はイスラエルによる自作自演であってもかまわない。イランの責任だと主張し、報復するだろう。
それは彼らの常とう手段です。そんなやり方に対し、言語学者のノーム・チョムスキー氏は「イスラエル支持は道徳的堕落」とさえ言いました。その物言いは、決して大げさではないのです。
彼らにあるのは強さだけ、他には何もない。
今後何が起きたとしても起きなかったとしても、少なくとも私たちはそのことを知っておかなければならない、私は強くそう思います。