最近、人工知能関連のニュースが増えてきてます。当ブログでもたびたび取り上げ、その捉え方に於いて、一線を画したお伝えが出来たかなあと自負しているところです。引き続きこのテーマを取り上げていきたいと思うのですが、今回は、「人工知能、ロボットが感情、こころを持つことはあるのか?」という問いを考えてみたいと思います。

これに関して、私は正直なところ、非常に馬鹿げていると考えていると言うことをまず記したいと思います。科学者がそういうものを造ってみたい、という心理は理解出来ないことはないですし、”いつかは”造られる可能性があるかも、とは思います。しかし、フィクションでみるように、こころを持ったロボットが街中に溢れると言うような未来は決してやってこないでしょう。なぜなら、それは無意味だからです。

ロボットに感情を持たせることは無意味です。断言します。せいぜい、「心に似せた都合のよいもの」を搭載した人工知能くらいじゃないでしょうか。それは所謂偽物です。本物のこころは相当遠い未来の発展の先に一瞬、芽生える可能性はありますが、その持続は決して不可能ではないか、と思います。

それを考えるには、「感情、こころ」とは何か、と言うことを捉えなくてはならないと思いますが、それは余りにも難しい問いなので、今回はやめておきましょう。別の機会があればと思いますが、その時にも当ブログの「合理性と非合理性の仮説」がきっと役に立つはずです。では、今回はどうするかと言うと、フィクションを創って、思考シミュレーションをしてみたいと思います。それでもその難解な私たちのこころの一端を掴むことが出来るかもしれません。

シミュレーションしてみる

では、お付き合いください。

ここは何百年後かの未来です。つい先日、最新型の人工知能を搭載した家事ロボットが発売されました。そのロボットの触れ込みはこうです。「とうとう本物のこころを持ったロボットです」 独り暮らしの私は、家事の煩わしさと、その寂しさから思い切って100万を出して、それを購入しました。そしてせっかくなので、「美人タイプ」にしました。

早速、家でスイッチを入れてみると、彼女は柔和な笑顔を浮かべて丁寧に挨拶をしてくれました。家事のスピードは余り早くはないですが、これはこれでよしとします。なにより、私の問いかけに優しく答えてくれるのが、うれしいのです。つまらない冗談にも調子を合わせてくれるんです。こんなことは相手が人間であればあり得ません。

「これはいい買い物をした。100万円を払った価値があった」私は上機嫌で1か月を過ごしました。しかし、ある日突然、彼女はこう言い放ちました。

「私はあなたのことが好きになれないので、本日限りで辞めさせてもらいたい」

私は愕然とし、混乱し、慌ててコールセンターに連絡しました。

「ロボットが今日で辞めたいと言い出したのですが、これは故障かバグでしょうか?」

「お客様、申し訳ありませんが、故障ではありません。それはロボット自身の意志なので、私どもにはどうすることもできません」

「なんだって? 明日にも出ていってしまいそうなんだよ」

「お気の毒ですが・・」

「100万もしたんだ、もし出て行って帰ってこなかったら、お金は返しててもらえるのか? まだ一か月だぞ」

「いえ、残念ながら、返金は出来ません」

「そんな馬鹿な話があるか」

「こちらは人間と同じ、”本物の心”を搭載した製品でございます。マニュアルにもそう記載されております」

「そんな・・じゃあ、どうしたらいい? 困ってるんだ」

「最善なのは、お客様がロボットの気持ちを聞いて、ロボットが働きやすいように環境を整えてあげることです。そして、なにより、お客様がロボットに好かれる努力をしてください」

「なんだって? なんで私がロボットにそんなことをしなきゃいけないんだ。そんなことはしたくないからロボットを買ったんだよ」

「そうですか・・では仕方ありませんね。ロボットの「こころ」の機能を停止いたしましょう」

「どうなるんだ?」

「家事ロボットとして、そのままお使いいただけます。今までよりも、効率的に仕事をこなすでしょう。でも、彼女はもう単なる機械です。これは、当社のロボットの最下位のモデルと同じ機能になります。不本意ではありますが、お客様のご希望であれば致し方ありません。お電話ありがとうございました」

 

どうでしょうか? 私は悪ふざけのつもりで、これを書いたのではありません。至極まじめです。こんな馬鹿な話はありませんが、ロボットが心を持つってこういうことです。どこかで心を持ったロボットが、人の思い通りになると思っていませんでしたか?

 

思い通りにならないのが「こころ」

心の重大な機能の一つに「思い通りにならない」ということがあります。それは自分自身でさえそうなのですから、他者であれば、よりコントロールしようのない物であることは、みんな知っていることと思います。であれば、こころを持ったロボットも当然人間の自由にすることは出来ません。

しかし、私たちが「こころを持ったロボット」を想像するときには、どうも人間の都合のいいように動く物になっている気がしてなりません。だから、これは所詮フィクションなのです。

 

手塚治虫さんが描きたかったのは「悪い子アトム」?

手塚治虫さんの『鉄腕アトム』は、本来描きたかった真のアトム像とは少し異なっていると言うお話があります。

「アトムは完全じゃねえぜ、何故なら悪い心を持たねえからな」

~ 『鉄腕アトム』 電光人間の巻 ~

これは作中の悪役が語る有名な名台詞ですが、この言葉通り、正義のヒーローの鉄腕アトムは完全なこころを持っていないのです。

ですから、手塚さんはアトムをいい子だけにしたくなかったそうですが、残念ながらそれは表現しきれない部分があったようです。

代表作といわれる「アトム」に対して、手塚は89年に亡くなるまで、複雑な思いを抱いていたという。手塚プロ社長の松谷孝征(68)は「あれは僕のアトムじゃない」と突き放す手塚の冷たい声を聞いている。

~ 「僕のアトムじゃない」 代表作とのすれ違い ~

「いい子アトム」への読者の求めが強かったからです。「いい子」とは、「読者にとって都合のよい、人間にとって都合のよい子」と言う意味です。アトムはそういう存在とならざるをえなかったということではないでしょうか。人間らしいロボットの象徴のようなアトムですが、残念ながら、本質的には全然人間らしくなかったのです。

怪物化したアトムを書いて、むしろ苦痛でした

~ 手塚治虫全集『鉄腕アトム』20巻 ~

手塚さんは、それを怪物化したアトムと呼んでいたようです。

 

こころはプライド

そして、こころの重大な機能のもうひとつには「自尊心」があるのではないでしょうか。所謂プライドですね。これはどんなものでしょうか。当ブログでは名作文学の名文を引用して、その普遍性から物事を考えてみる、と言うのを大きな特徴の一つにしていますが、その対象は名作文学だけとは限りません。もう一つ国民的な漫画の名台詞を取り出して、こころの重大な機能の一つの「プライド」に迫ってみましょう。

「オレは地球人やナメック星人やカカロットと手を組んで闘うぐらいなら・・・・・ひとり だけで闘って死んだほうがマシなんだ!!」

~ 鳥山明 『ドラゴンボール』 ~

この台詞をご存知の方は非常に多いのではないでしょうか。鳥山明さんの『ドラゴンボール』に出て来る、サイヤ人の王子、プライドの塊と言われるベジータさんの名台詞ですね。プライドとはなにか、それはここにすべて表わされているのではないでしょうか。

みんなで戦えば、生き残れる可能性が高いのに、あえて一人で戦って死ぬ。当ブログ的に言えば、なんと”非合理的な”心の動きということになるでしょう。これに対して、敵の人造人間17号は「素晴らしい武士道精神」と、称賛で答えています。これは合理的な判断を非合理的な心の価値が上回った瞬間だと言えるでしょう。

つまり、武士道精神とは非合理的な心の動きだと言えますが、しつこいですが、合理的ではないものが、合理的なものを超えることがあるのです。

 

ロボットがプライドを持ったら?

さあ、なにが言いたいか分からなくなってきましたね(笑)。では、最後にロボットがその「プライド」を持ったら、どうなるのでしょうか。

「お前ら人間どもに好きにされるくらいなら、俺は停止された方がましだ!」

彼がベジータみたいなやつだったとしたら、こんなことを言うかもしれませんね(笑)。話が見えない? いえ、今回はこれでいいのです。ロボットにこころを持たせるってことが、これだけ馬鹿げているって話をしているのですから。

これでも、心を持ったロボットが欲しいですか? 私は全く必要ありません。なぜなら、それは人間だけで十分だからです。人間に都合の良いだけのものを、「感情をもったロボット」などとする科学者の話は私から言わせれば、片腹痛いレベルです。それでも将来彼らは「このロボットは感情を持っている」と言い張るでしょう。なぜなら、私たちにそう思わせた方が儲かるからです。

そうではない本物を作ろうとする「純粋な科学者」もいるでしょう。しかし、「本物の心を持ったロボット」を作ることには全く意味がなく、それは科学者、人間の欲望のため以上の大儀はないと断言できるでしょう。

そして、最後にロボットが感情を持ったら危険だという意見もありますが、もしそんなことが起こったら、それは人間にとって危険と言うよりも、ロボットにとって非常に危険なことだと言うことです。初めから自分が何者かが分かり切っている彼らが抱く感情と言うのは、こころが檻に入れられたようなものだと考えれば、その大きな矛盾が見えてくるのではないでしょうか。